「吉野家」が「ラーメン」を次の柱に 企業買収を再開 不適切発言の役員解任の影響は

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東京都千代田区内の店舗

牛丼チェーン「吉野家」を運営する吉野家ホールディングス<9861>が、攻勢に転じる。

同社はコロナ禍の中、レストランチェーンのアークミール(さいたま市)、持ち帰りずしチェーンの京樽(東京都中央区)、ファストフード事業のグリーンズプラネットオペレーションズ(東京都港区)の3社を立て続けに売却したが、「足場が固まった」として企業買収を再開する方針を打ち出した。

2023年2月期から2025年2月期までの3カ年の新中期経営計画によると、この3年間にM&Aに100億円を投じる計画だ。

同中期経営計画ではラーメンを、牛丼(吉野家)、うどん(はなまる)に次ぐ第3の柱に育てる方針で、2016年の「せたが屋」、2019年の「ばり嗎(ばりうま)」「とりの助」に次ぐラーメン店の買収や、ラーメン材料の調達、製造、在庫管理、配送などのサプライチェーンの構築に関わる分野などでの買収活動が活発化しそうだ。

3年間でM&Aに100億円を投資

新中期経営計画では最終年の2025年2月期に売上高1800億円(2022年2月期比264億円増)、営業利益70億円(同46億3500万円増)を掲げており、目標達成のための成長投資として、既存事業での出店や改装などに300億円、M&Aに100億円を投じることにした。

同社では「グループ経営理念に寄り添うM&Aのみ行う」とし、どの分野でM&Aを実施するのかは明言していないが、第3の柱として育成に力を注ぐラーメン事業に資金を投入する可能性は高い。

同社の2022年2月期の吉野家の売上高は1070億4700万円(前年度比1.4%増)、はなまるの売上高は214億2900万円(同8.3%増)、海外の売上高は224億9500万円(同15.2%増)で、ラーメンを含むその他の事業の売上高は26億3000万円に過ぎない。

このためラーメン事業を、はなまるに近い規模にまで成長させるのには、新規出店や改装などと並んで、時間を買うM&Aも必要になってくる。2019年に売りに転じた同社が買いに転じるのは、そう先のことではなさそうだ。

2023年2月期は増収減益予想

吉野家ホールディングスの2022年2月期は売上高が1536億100万円(前年同度比9.8%減)、営業利益は23億6500万円(前年度は53億3500万円の赤字)、経常利益156億4200万円(同19億6400万円の赤字)、当期利益は81億1600万円(同75億300万円の赤字)と減収増益となった。

減収の主な要因は京樽の売却で、京樽の影響を考慮すると増収だったという。営業利益はコスト削減に加え、販売価格の改定などにより黒字を確保。これに営業時間短縮に伴う感染拡大防止協力金や雇用調整助成金などが加わり、経常利益と当期利益は大幅に改善した。

2023年2月期は、売上高1680億円(同9.4%増)、営業利益34億円(同43.8%増)、経常利益54億円(同65.5%減)、当期利益35億円(同56.9%減)を見込む。

売上高の回復に伴い、営業利益は増益となるものの、前年度並みの感染拡大防止協力金などが見込めないため、経常利益と当期利益は大幅な減益となる。

不適切な発言で伊東常務を解任

吉野家ホールディングスは、子会社である吉野家の伊東正明常務に「人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することのできない職務上著しく不適任な言動があった」として、2022年4月18日付で同氏を解任した。伊東氏は早稲田大学の講座で、生娘をシャブ漬けにするなどと発言していた。

今後この問題によって、どのような影響が現れるのか。状況によっては2023年2月期の業績や中期経営計画に暗雲が漂うことになるかもしれない。

文:M&A Online編集部