5分でわかる吉本興業! 上場廃止、MBO、業績、株主構成は?

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吉本興業の岡本昭彦社長が7月22日に緊急会見を開きました。

一部芸人が反社会的勢力から出演料として金銭を授受した問題に絡み、宮迫博之さんと田村亮さんが同社を通さず謝罪会見を強行。会見の中で、岡本昭彦社長が「テープは録ってないだろうな」「会見をすれば、全員クビにする」などと、脅しともとれるような発言をしたと暴露しました。それに対して、業界内外から激しい議論が巻き起こりました。

会社側の会見で岡本社長は50%の減俸、2人の処分は撤回するとしました。しかし吉本興業の会見は遅きに失した上、その内容も人々の不信感を払しょくするものではありませんでした。芸能プロダクションに必須な危機管理、情報開示が何一つうまくいっていませんでした。

同社は2009年まで上場しており、MBOを実施して非上場化しています。吉本興業とはいったいどのような会社なのでしょうか?

吉本新喜劇
根強い人気の吉本新喜劇(画像はプレスリリースより)

資本準備金から116億3600万円を取り崩し

直近の純利益(2018年3月期)は7億1000万円でした。売上高は公表していません。

バランスシートを見てみましょう。

2018年3月期の時点での流動負債は188億4300万円。一方、流動資産は49億6300万円。簡単に説明すると、これは1年以内に支払わなければならないお金が188億4300万円なのに対し、1年以内に現金化できる資産が49億6300万円しかないことを示しています。同社はこれまで積み立てたお金である資本準備金など241億円から、116億3600万円を取り崩している状態です。

実はこの会社、上場していた2009年3月期までは流動資産である現金が124億円、利益剰余金が280億円も積みあがっていた超優良企業でした。

そのときの業績を見てみましょう。

決算 2009年3月期
売上高 488億7100万円
営業利益 43億5700万円
経常利益 40億2200万円
純利益 6億1200万円

有価証券報告書より

この時の流動資産は264億6100万円、流動負債は133億9900万円。固定資産は352億7600万円、固定負債は32億4800万円でした。バランスシートも健全な状態が保たれています。

吉本興業は多数の不動産を所有しており、固定資産が膨らんでいるのはそのためです。なんばグランド花月(吉本会館)や、その向かいにあるYES NAMBAビルは土地も含めてすべて所有しています。YES NAMBAは、もっとも資産価値が高く、2009年3月期の時点で、帳簿価格は60億2900万円となっています。

不動産を多数所有しているとはいえ、売上の構成比率では制作の割合が圧倒的に高くなっています。制作とはタレントの出演料や番組制作を指します。事業はグッズや映像作品などの商品販売のことです。

※百万円

セグメント 売上高 割合
制作 43,780 89.6%
不動産 1,302 2.7%
事業 3,788 7.8%

エンターテインメント事業でしっかり稼いでいた吉本興業。潮目が変わったのは、2009年のMBOでした。

ラフピー
6月に公式アプリをリリース(画像はプレスリリースより)

500億円でMBOを実施、キー局が株主に

吉本興業は2009年9月に元ソニー会長の出井伸之氏が率いるコンサルティング会社「クオンタムリープ」のTOBに賛同。上場を廃止すると発表しました。これは実質的なMBOです。

この時のスキームはクオンタムリープが立ち上げたSPC(特別目的会社)に、各テレビ局やソフトバンク、ヤフー、広告代理店などが出資。銀行からの借り入れによるレバレッジをきかせ、500億円を調達。市場の株式を買い取るというものでした。

吉本興業は非上場による成長促進で再上場を目指す意思はありませんでした。当時はグローバル化(特にアジア戦略)を進めており、経営判断を迅速に行うことが重要になると考えたのです。すなわち、非上場化して各メディアなどを主要な株主にすることが、MBOの目的でした。

結局、吉本興業のグローバル展開は上手くいきませんでした。ソフトバンクと共同で催したお笑い大会「S-1バトル」は、2年ほどで終了しています。賞金1億円というソフトバンクらしい企画で、現在のお笑いバトルの先駆けになるようなイベントでした。しかし、時代を先取りしすぎたのか投資に見合う成果を得られませんでした。

当初目論んでいた経営戦略は思うようにいかず、MBO時に抱えた莫大な借金の返済による現金や剰余金の減少が、現在の財務状況の悪化(特にバランスシートのいびつな構成)に繋がっていると考えられます。

最後に、吉本興業の株主構成を見てみましょう。同社はサイトをリニューアルする前の2012年ごろまで、コーポレートサイト上に株主を明記していました。下の表はそのときのものです。

テレビ局や大手広告代理店、ソフトバンク、KDDIなどの通信業、パチンコの京楽産業、角川などのメディア関連が並んでいます。

〇吉本興業の株主構成

企業名 株式数 割合
株式会社フジ・メディア・ホールディングス 60,000 株 12.13%
日本テレビ放送網株式会社 40,000 株 8.09%
株式会社TBS テレビ 40,000 株 8.09%
株式会社テレビ朝日 40,000 株 8.09%
大成土地株式会社 40,000 株 8.09%
京楽産業 株式会社 40,000 株 8.09%
BM 総研株式会社
※ソフトバンク子会社
30,000 株 6.07%
株式会社テレビ東京 20,000 株 4.04%
株式会社電通 20,000 株 4.04%
株式会社フェイス 20,000 株 4.04%
朝日放送株式会社 12,400 株 2.51%
株式会社三井住友銀行 12,000 株 2.43%
ヤフー株式会社 10,000 株 2.02%
大成建設株式会社 10,000 株 2.02%
岩井証券株式会社 10,000 株 2.02%
株式会社毎日放送 10,000 株 2.02%
株式会社シーエスロジネット 10,000 株 2.02%
株式会社ドワンゴ 8,000 株 1.62%
松竹株式会社 7,000 株 1.42%
KDDI 株式会社 6,000 株 1.21%
株式会社CELL 6,000 株 1.21%
住友信託銀行株式会社 6,000 株 1.21%
株式会社みずほ銀行 6,000 株 1.21%
関西テレビ放送株式会社 5,000 株 1.01%
讀賣テレビ放送株式会社 5,000 株 1.01%
東宝株式会社 5,000 株 1.01%
株式会社角川グループホールディングス 5,000 株 1.01%
株式会社タカラトミー 5,000 株 1.01%
株式会社博報堂 2,800 株 0.57%
テレビ大阪株式会社 2,000 株 0.40%
株式会社博報堂DY メディアパートナーズ 1,200 株 0.24%
クオンタムリープ株式会社 60 株 0.01%

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