【安川電機】10年で売上2倍、利益3倍に

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安川電機本社社屋

    安川電機<6506>は2025年度に向けてM&Aを積極化する。メーン事業であるモーションコントロールやロボットはもちろん、電気自動車や風力、太陽光発電なども対象とし、2025年を最終年とする経営計画「2025年ビジョン」の達成を、M&Aを駆使して目指す作戦だ。2025年まであと8年。現時点で「具体的な案件はない」(広報・IR部)とはしているものの、2018年からは次第に案件が表面化してきそうだ。

 安川電機が策定した「2025年ビジョン」では、最終年度の2025年に目指す数値として、売上高が2016年3月期の実績である4113億円の2倍以上、営業利益が2016年3月期の実績の367億円対し1000億円以上という目標を掲げている。10年間で売上高を2倍以上に拡大し、営業利益を3倍ほどにするという挑戦的なものだ。このため通常の事業の成長に加え、一気に数字の上積みが見込めるM&Aへの関心が高まっているわけだ。


2025ビジョン数値目標

2015年3月期実績 2025年目標
売上高 4113億円 2倍以上(2016年3月期比)
営業利益 367億円 1,000億円以上
利益率 8.90% 10%以上

4つの分野でM&A が活発化

 ではどのような分野でのM&Aを見込んでいるのか。それは2025年ビジョンを開くと答えが浮かび上がってくる。2025年ビジョンの主な戦略は四つある。一つは「既存コア事業で世界一を追求」であり、具体的には産業用ロボットとモーションコントロール分野で世界シェア1位を目指すというもの。二つめが「産業自動化革命の実現」であり、世界最先端のメカトロニクス技術とICT(インフォメーション アンド コミュニケーション テクノロジー=情報通信技術)の融合に取り組み、新しい自動化のソリューションを提供するというもの。

 三つめが「創・蓄・活エネ事業の確立」であり、再生可能エネルギー事業のグローバル展開を進めるとともに、電気駆動の新市場を開拓し、コア事業として確立するというもの。そして最後の四つめが「医療・福祉市場への挑戦」で、人間の能力を補強し、生活の質が向上する機器を開発し、市場を創造するというもの。2018年以降はこれら四つの分野でM&Aを積極化させることになる。

安川電機の部門別製品

事業名 製品
モーションコントロール ACサーボモーター、コントローラ、インバータなど
ロボット 産業用ロボット、半導体製造装置用ボット、バイオメディカル用途
向けロボット、人共存型ロボットなど
システムエンジニアリング 鉄鋼プラント用電気システム、上下水道用電気システム、大型風力
発電、船舶用電機品、太陽光発電用機器など
その他 情報関連事業、物流サービスなど

トップシェア事業の買収も

 では、これまでのM&Aはどうであったのか。同社の主なM&Aは過去に三つある。一つは2012年に実施したドイツのメーカーであるVipa社の買収に関するもの。Vipa社は制御機器の一つであるPLC(プログラマブルロジックコントローラ)の開発、製造を手がけており、包装や食品、飲料市場、物流向けコンベアシステムなどで強みを持つ。安川電機ではこのM&AによりFAシステムにおけるトータルシステムソリューション提供力を強化してきた。

 2013年に実施した横河電機<6841>のダイレクトドライブモーター(写真左)事業の譲り受けも大きな出来事。安川電機のダイレクトドライブモーターは半導体、液晶、ロボット、工作機械などの市場で地位を築いてきた。一方、横河電機のダイレクトドライブモーターはトップシェアを確保しており、高剛性で精度の高い製品を提供してきた。安川電機ではこのM&Aで製品のラインアップを拡充でき、幅広い顧客ニーズに対応できるようになった。

 2014年にはフィンランドの風力発電用電機品メーカーThe Switch Engineering Oyを買収した。Switch 社とは2013年から業務提携しており、次のステップとして買収に踏み切った。Switch社を環境·エネルギー事業の中核会社と位置づけ、両社が得意とする分野を合わせ、今後成長が見込める風力発電設備市場において成長を目指している。

好調な業績

 2017年度は決算期を3月から2月に変更する。海外連結子会社を含むグループ全体として決算期を2月に統一することで経営情報の適時、的確な開示による経営の透明性を高めるのが狙いという。この変更で決算期間が短くなるものの2018年2月期は売上高で前年度より14%ほど増収となり、営業利益も同じく8割近い増益となる。制御機器や自動車向けが好調に推移しており、当初予想よりも大幅な増収増益を達成できる見込みだ。これに伴って財務内容もよくなり、M&Aに振り向ける資金にも余裕がでてくることが予想される。2018年以降、M&Aが活発化しそうな情勢だ。

安川電機の業績推移    

決算 売上高(億円) 営業利益(億円)
2015年3月期 4001 315
2016年3月期 4113 367
2017年3月期 3948 304
2018年2月期(予想) 4500 540

地域に貢献して100年

 安川電機は安川財閥の創始者である安川敬一郎の5男である安川第五郎が1915年に創業。モーター(写真左=1917年に開発した3相誘導電動機)事業を中心に発展を遂げ、1977年には日本で初めて全電気式産業用ロボットである「MOTOMAN-LI=写真下」を投入。以来、世界の産業用ロボットをリードしてきた。

 父親の安川敬一郎は「国家によって得た利益は国家のために使うべきである」という信念から、炭鉱で築いた私財を投じて九州工業大学の前身となる私立明治専門学校を設立し、北九州工業地帯の発展に尽力した。地域の役に立つとの思想は現在も引き継がれており、2015年の創業100周年には記念事業とし100億円強を投じて北九州市の本社敷地内に、最新のロボット展示施設や緑地帯「YASKAWAの森」などを整備し「ロボット村」として一般に公開した。当時の津田純嗣会長兼社長は北九州市にこのような企業があることに対し「地域や子どもたちが誇りに思ってほしい」と強調した。津田氏は地元北九州市の商工会議所会頭を長く務めるなど、同社の地域に対する思いは強い。

この記事は、当該企業の取材を基に執筆いたしました。

文:M&A Online編集部