元新聞記者に聞く「文章力がアップする」おすすめ本3選

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「あなたの文章力、それで大丈夫ですか?」ーーいきなり上から目線で恐縮だが、筆者はM&A Online編集部に配属になるまで(そしてなっても)文章のトレーニングを正式に受けていない。だから「本当にこのままで良いのだろうか・・・」と若干の不安を抱えながら記事を書いているライターさんの気持ちがよくわかる。

そんな悩める初心者ライターに物書きのプロである元新聞記者がおすすめする本がコレだ!

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文章力をアップしたい人必見!元新聞記者がおすすめする「文章を書くのに役立つ本」

1.「第13版 記者ハンドブック 新聞用字用語集」(共同通信社)

記者ハンドブック 新聞用字用語集
言葉の使い方に迷ったときに

「愛想を振りまく」「合いの手を打つ」これは正しい言葉の使い方なのか。迷った時に手にするのが、共同通信社発行の『記者ハンドブック新聞用字用語集』(共同通信社)だ。 

同ハンドブックを調べると「愛想を振りまく」は「愛嬌を振りまく」というのが正しい。愛想は人に対する態度を指し、愛嬌は笑顔などのかわいい表情を指す。態度は振りまけないが、笑顔は振りまけるため、振りまくのは愛嬌となる。

「合いの手を打つ」は「合いの手を入れる」とするとある。合いの手は相手の話の間に挟む言葉のため、合いの手は打つではなく入れるとなる。

こうした事例をはじめ使ってはならない言葉の言いかえ事例や、漢字は使わずひらがなたで表示する事例などが豊富に収容されている。

「レポート」なのか「リポート」なのか。「ワイヤ」なのか「ワイヤー」なのか。迷った時はこの本が回答を示してくれる。

新聞で使う用字や用語のため、必ずしも、これしかダメというものではないが、本書に従って用語を使っていれば安心感がある。(編集委員M)


2.「伝わる・揺さぶる!文章を書く」(山田ズーニー・PHP新書)

伝わる・揺さぶる!文章を書く
文章超初心者におすすめ

書くことを生業としている身から見れば、巷にあふれる「文章力アップ本」はテクニックや修辞に走っているような気がしてならない。

書くことに慣れている人には参考になるかもしれないが、「文章が書けない」と悩んでいる人には何の役にも立たないのではないかと思う。水面に顔をつけるのさえ怖いという人に、「簡単!バタフライはこう泳げ」という本を勧めるようなものだ。

そんな「文章超初心者」におすすめしたいのが、『伝わる・揺さぶる!文章を書く』(山田ズーニー・PHP新書)である。冒頭で著者は「書くことは考えることだ」と看破している。良い文章を書くには「自分の頭でものを考える方法」を身に着けるのが早道なのだ。

文章本にありがちな文例の暗記や応用などではなく、「考えるトレーニング」が必要だと説く。「考えるヒマがあったら手を動かせ」は、最悪の文章鍛錬法なのだ。これは仕事やスポーツでも同じだろう。

では、何を「考える」のか。文章はコミュニケーション手段の1つにすぎない。コミュニケーション手段である以上、考えなくてはいけないのは「読み手に伝わり、心を動かし、書き手の望む結果を出すためには何が必要なのか」-その1点である。

そのためには「1,論点(何について書くか)2,論拠(意見の理由)3,意見(結論)を押さえておけばよい」という。別に難しい話ではない。普段の会話で誰もがやっていることなのだ。(編集委員I)

3.「日本語最前線 赤ペン記者ノート」(毎日新聞社)

日本語最前線 赤ペン記者ノート
日本語の“作法”を身につける

「平明、達意を心がけるように」。会社(新聞社)に入って駆け出しの頃、配属先の支局長から、事あるごとに聞かされたのが冒頭のフレーズ。新聞記事に美文や名文は不要で、伝えたいことを分かりやすく表現するのが基本というわけだ。

ところが、いざ実践するとなると難しい。取材力が足りず、そもそも自分が理解していないのが根本的な原因だが、文章力においても日本語の使い方の“常識”が備わっていなかった。そんな時に出合ったのが『日本語最前線 赤ペン記者ノート』(毎日新聞社)。

30年以上も前のこと。今では想像できないが、当時は、パソコンもなく、原稿用紙のマス目を手書きで埋めていた(あー懐かしい)。

それでは本書から、少々引用してみたい。

「隣の家で下宿している山田さんと会った」

簡単な文章ながら、読みとり方はいろいろ。「隣の家を訪ね、そこに下宿している山田さんに会った」とも、「隣家に下宿している山田さんに(どこかで)会った」とも読める。さらに「隣の家を訪ねたところ、わが家に下宿している山田さんに会った」という解釈もできる。

「犯人は元陸上競技の選手で、足に覚えのAさんが500メートル追いかけて捕え…」

素直に読めば、犯人は元陸上競技の選手。ところが事実は、選手はAさんの方。「犯人は、元陸上競技の選手で足に覚えのAさんが…」と、読点の位置を変えれば、誤解されずに済む。

新聞原稿は時間を争って書く宿命があるため、出稿段階で変な言葉づかいや当て字、誤字がつきもの。本書をまとめたのは毎日新聞校閲部。紙面から誤植をなくすことはもちろん、正しい日本語で書かれた記事を読者に提供するのが赤ペン記者(校閲記者)の責務だ。

もっとも、パソコンで原稿を書くようになって、赤ペン記者という言葉もとんと聞かなくなった(死語に?)。

校閲記者の目
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「船は沿岸沿いに進んだ」「現場から約1キロ程の地点」「後で後悔するよ」などといった重複した使い方は話し言葉として日常茶飯事だが、いざ文章にすると筆がすべりがち。 こんな目からウロコ、のような話が満載している。文章云々を抜きにして、とにかく読み物としておもしろい。

『日本語最前線 赤ペン記者ノート』は絶版のため、興味のある方には、2017年9月に出版された最新の『校閲記者の目』(毎日新聞出版)を薦めたい。(K編集長)

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ちなみに本記事は、編集部の校正を経て公開されております。

文:M&A Online編集部