くすぶる「第3次緊急事態宣言」発令、効果は期待できるのか?

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「まん延防止等重点措置の効果が薄ければ、緊急事態宣言を検討するのは当然だ」。新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は2021年4月9日の衆院厚生労働委員会で、「第3次緊急事態宣言」発令の可能性があることに言及した。だが、問題は宣言が「出るか」ではなく、それで「感染拡大を抑え込めるか」だ。

実効再生産数は1を超え、感染拡大が続く

緊急事態宣言は2020年4月と2021年1月の2回にわたって出された。だが、同じ緊急事態宣言と言っても中身は全くの別物。昨年の第1次宣言は小売店から飲食店、映画館、劇場、スポーツ施設、ジム、パチンコ店など幅広い業種に休業要請の網をかけたが、2020年4~6月期の国内総生産(GDP)2次速報値が年率換算で28.1%も減少するなど、経済が大打撃を受けた。

そのため第2次宣言では業種を飲食業に絞り、休業ではなく営業時間の短縮を要請する。2度にわたる緊急事態宣言で新規感染者や重症患者は減少したが、第1次宣言解除後に感染の第2波、第3波が起こり、厚生労働省によると第3波では2021年1月8日に全国で7844人とコロナ禍最大の新規感染者を出すことになった。

2月28日に大阪府など6府県で、3月21日には東京都周辺の1都3県で第2次宣言が解除されたが、その直後から新規感染者が急増。大阪府、兵庫県、宮城県で4月5日から、東京都、京都府、沖縄県で同12日から「まん延防止等重点措置」の適用を決めた。

「1人の感染者が平均で何人に感染させるか」を示す実効再生産数は4月1日から3日に1.29に上昇したが、その後は1.21前後で推移している。とはいえ東京を中心とする1都3県が宣言解除から3週間を経過し、大阪府などと同様の感染拡大期に入ろうとしている。再び実効再生産数が増加に転じる可能性が高い。

ワクチンの接種遅れで、感染のシーソーゲームに

まん延防止等重点措置は第2次緊急事態宣言と内容は、ほぼ変わらない。休業要請ができない、過料の金額が少ない、市町村単位で適用できるというのが主な違いだ。大きな効果は期待できないだろう。

大阪府や兵庫県のように感染力が強いウイルスの変異株が急拡大した場合は、感染を抑え込むために第3次宣言で第1次宣言と同様に対象業種を拡大して休業要請にまで踏み込む、あるいは欧米が断行したロックダウン(都市封鎖)などの厳しい措置が必要になる。

そうした厳しい感染抑制策が断行された場合、東京圏の経済損失がさらに約4兆円増えるとの試算もある。政府は景気の落ち込みに神経質になっており、衆議院選挙を控えて厳しい措置が取られる可能性は小さい。

先ずはまん延防止等重点措置で、それで食い止められなければ第2次宣言並みに緩い第3次宣言で自粛ムードを高めて感染を抑え込むのが政府の狙いだ。しかし、コロナワクチンの接種が進まない限り、措置や宣言が解除されれば人の動きが活発になって感染の再拡大が続くことになる。

日本のワクチン接種率は人口100人当り1.2人(101位)と国際的に見ても低い。わが国で65歳以上のワクチン接種が完了するのが6月末。5月11日までのまん延防止等重点措置に続いて第3次宣言を発令して自粛期間を引き伸ばしたとしても、現役世代の接種完了には間に合いそうにない。これまでのように宣言で感染を抑え、解除でまた増える「シーソーゲーム」が続きそうだ。

人口100人当りの新型コロナワクチン接種数

順位 国名

人口100人当り接種数

1 イスラエル 115*
2 セーシェル 107*
3 アラブ首長国連邦  92
4 ブータン  63
5 チリ  61
6 バーレーン  57
7 英国  57
8 モルディブ  54
9 モナコ  53
10 米国  53
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65 ロシア  9.2
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71 インド  7
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92 韓国  2.3
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100 ジャマイカ  1.4
101 日本  1.2
102 赤道ギニア  1.1

ニューヨーク・タイムズ調べ、2021年4月9日(米国時間)時点
*100を超えるのは、ファイザー製などで2回目の接種が進んでいる国

文:M&A Online編集部