新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で打撃を受けた業界といえば、2021年1月の第2次緊急事態宣言や現在進行中のまん延防止等重点措置で営業時間の短縮要請を受けた飲食業が真っ先に思い浮かぶ。だが、それ以上の打撃を受けている業界がある。ブライダル業界だ。
飲食業にはランチや配達需要があり、国からの時短協力金も支給される。一方、結婚式や披露宴では高齢者を含む親族や友人が大勢集まって会食をするため、コロナ禍による延期やキャンセルが相次いだ。昼間の挙式が中心なのでブライダル業界には営業時短要請もなく、協力金もない。
昨年4月に発令された第1次緊急事態宣言時には、「とりあえず延期で様子見」という顧客も多かった。が、コロナ禍が長引くと式の中止や身内だけの会合にしたりするなど「結婚式離れ」が目立つようになる。
東京商工リサーチの調査によると、2020年度(2020年4月〜2021年3月)の結婚式場の倒産(負債額1000万円以上)は前年度比28.5%増の9件と、2年連続で前年度を上回った。このうちコロナ関連倒産は7件と全体の77.7%を占める。
コロナ禍で影響を受けた業界の代表格である飲食業では同期の倒産件数が784件、コロナ関連倒産は202件と多いが、構成比では全体の25.7%と3分の1以下だ。いかにコロナ禍がブライダル産業に深刻な影響を与えているかが分かる。
さらに結婚式場の負債額は「1億円以上」の比率が88.8%と、全産業の23.5%を4倍近く上回っている。結婚式場は古臭くならないように頻繁な設備投資が必要で、倒産すると負債額は膨らむ傾向にある。
その象徴的な出来事が2021年3月19日に明らかになった、ワタベウェディング<4696>の事業再生ADR(裁判外紛争解決)申請だ。同社は結婚式と新婚旅行を兼ねた海外リゾートウエディングブームを巻き起こしたブライダル業界の大手。
しかし、コロナ禍で結婚式や披露宴の延期や中止が相次ぎ、2021年12月期は約117億円の最終赤字となり、約8億6300万円の債務超過に転落した。ワタベウェディングは興和を割当先とする総額20億円の第三者割当増資を実施することなどを決議。5月27日頃に開催する予定の第3回債権者会議で興和の下での事業再生計画の成立を目指す。
「ホテル椿山荘東京」などを運営する藤田観光<9722>も、大阪の代表的な結婚式場だった老舗宴会場の「太閤園」(大阪市都島区)を創価学会に売却し、6月末で営業を終了する。2021年1月21日には結婚式場の衣装室でウエディングドレスなどの貸衣装サービスを展開し、グループ会社を通じて結婚式場の運営なども手掛けていた扇屋(大阪市北区)が大阪地裁へ特別清算を申請し、2月19日に特別清算開始命令を受けた。
コロナ禍以前にも少子化と生涯独身者の増加でブライダルの潜在需要は減少傾向にある。さらには若者の所得が伸び悩み、挙式にお金をかけない「地味婚」が増えており、ブライダル需要は減少する一方だ。
そうした複合的な原因が積み重なって、ブライダル業界が苦境に陥っている。だから「コロナ禍が収束すれば業界はV字回復する」のは楽観的すぎるかもしれない。若年層がコロナ後の「ニューノーマル」で結婚式離れが定着すると、ブライダル業界の苦境はさらに長引くことになりそうだ。
文:M&A Online編集部