旧東芝メモリのキオクシア、「上場」か?それとも「買収」か?

alt

旧東芝メモリのキオクシアホールディングスは新規上場するのか、それとも買収されるのか?見方は真っ二つに分かれている。東芝〈6502〉再生のために新規株式公開(IPO)を目指したキオクシアは「方向転換」するのか?

突然浮上した東芝メモリ「買収」説

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が2021年3月31日に「米半導体大手のマイクロン・テクノロジーとウエスタンデジタルが、それぞれキオクシアに対するM&Aを検討している」と伝えた。

これに翌4月1日、ブルームバーグが早ければ今年の夏にもIPOを目指すと伝えた。もともとキオクシアは2020年10月6日に東京証券取引所への新規上場を目指していたが、その前週の9月28日に延期を決めている。

もっとも、WSJは「キオクシアの買収が実現する保証はなく」「合意に至らない場合、年内に上場する可能性がまだある」としている。一方、ブルームバーグも関係者の話として、買収は「まったくありそうもない」が「株主がIPOの代替案を検討している可能性はある」と含みを残す。

キオクシアを売却するのか、それとも予定通り上場するのかは、同社株の約6割近くを保有する米投資会社のベインキャピタルと4割を持つ東芝の意向に大きく左右されるのは間違いない。

前回の上場延期では公募価格の仮条件が1株2800~3500円と、上場承認時の想定価格3960円を1~3割下回る水準だったことが影響している。

この仮条件で上場した場合の時価総額は約1兆5000億~1兆8800億円となり、2018年6月に総額約2兆円で旧東芝メモリを買収したベインキャピタルや売り手の東芝にとっては容認できる価格ではなかった。

上場と買収、どちらが「高く売れる」か?

日経平均株価は上場延期を決めた2020年9月28日の2万3511円62銭に比べると、2021年4月2日には2万9854円00銭と1.27倍に上昇している。

平均株価と同じ幅で上昇すれば公募価格は3556〜4445円、時価総額も1兆9000億〜2兆3800億円となる。これに半導体不足による需要増を見込んだ投資家の行動が、キオクシアの株価をさらに押し上げるとの期待もある。

確かにフラッシュメモリーでは、作動が正確でデータの読み出し速度が速く、耐熱性の高い「NOR(ノア)型」と呼ばれる家庭用ゲーム機や自動車向けのメモリーが需要増で値上がりしている。

しかし、キオクシアが手掛けるNAND(ナンド)型メモリーの値上がりはそれほどでもない。キオクシアが上場したとしても、公募価格がベインキャピタルや東芝の期待する水準に達するかどうかは不透明だ。

キオクシアが手掛けるNAND型メモリー価格はそれほど上昇していない(同社ホームページより)

最も大きな判断材料は「どちらが高く売れるか」だろう。WSJによるとマイクロン・テクノロジーとウエスタンデジタルは「キオクシアの企業価値を約300億ドル(約3兆3200億円)と評価する可能性がある」としており、公募価格での時価総額がそれよりも低ければ売却に傾くかもしれない。

ただ、マイクロン・テクノロジーとウエスタンデジタルがNAND型メモリー市況をみて、企業価値の評価を引き下げる可能性もある。そうなればベインキャピタルや東芝は、IPOの方がメリットが大きくなると判断するだろう。株式公開かM&Aか、しばらくは「綱引き」が続きそうだ。

文:M&A Online編集部