東急不動産HDが「ハンズ」をカインズに売却した理由

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池袋店の閉鎖などリストラを進めていた東急ハンズ

東急不動産ホールディングス(HD)<3289>が市街地立地型ホームセンターの東急ハンズを、大型ホームセンターを運営するカインズへ売却すると発表した。ハンズは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大に伴う店舗販売の低迷で業績が悪化していた。それにしても「文化発信拠点」として東急グループのイメージアップにも貢献してきたハンズを、なぜコロナ禍の出口が見えてきた現在になって手放すのか?

「不動産業」化する小売業

実は店舗小売業は「不動産業」化している。百貨店も再開発でオフィスビルを併設したり、直営店舗以外のテナントを募集して賃料収入を得るなど、不動産事業への進出を加速している。

その最初の成功例と言われているのがイオン。同社子会社が郊外で展開する大規模ショッピングセンター「イオンモール」は核店舗の「イオン」に加えて、小売りや飲食、サービス、映画館、病院などの外部テナントに入居してもらい、賃料収入で売上を立てている。

イオングループの祖業である小売りと違い、不動産事業は初期投資がかかるものの安定収益が期待できるため、経営の安定性が高いというメリットがある。百貨店が不動産事業に力を入れているのも、そのためだ。

とはいえ小売り関連の不動産業も決して「楽な商売」ではない。競合施設に店子を奪われると収入を絶たれることになるので、他の不動産との差別化が収益を大きく左右する。

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「本業回帰型」の子会社売却

差別化のポイントは「規模」と「立地」。イオンモールは主に「規模」で差別化を図っている。大規模なショッピングモールを開発することで地域最大のショッピングモールとなり、賑わいを創造して出店意欲を高めることに成功している。

かつては都市型店舗しかなかった「無印良品」や「スターバックスコーヒー」などの地方進出にもイオンモールが一役買っている。いわば地方における「都市文化の発信地」であり、広い商圏を持つ。

一方、不動産活用という側面から見ると、「ハンズ」は小型店舗を除いて大都市での「立地」で差別化してきた。地価が高くてもバイヤーの目利き力を駆使し、「ここにしかない商品」を取り揃えることで、安売りを避けて利益をあげるビジネスモデルだ。親会社の東急不動産HDはこのビジネスモデルで。子会社のハンズから利益を得ていた。

しかし、コロナ禍で業績が下落しているのに加えて、大都市近郊の大型ホームセンターとの品揃えや価格での競合が厳しくなっている。そこで「ハンズ」を売却することにより、東急不動産HDは子会社を通じてのホームセンター事業から撤退。カインズに売却した「ハンズ」から事業売却益に加えて、安定した不動産賃貸収入を得られる。「本業回帰型」の子会社売却と言えそうだ。

文:M&A Online編集部