第2次コロナ緊急事態宣言が「大幅緩和」された三つの理由

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政府は2021年1月8日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急拡大に対応し、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の1都3県に2度目の緊急事態宣言を出した。が、前回の宣言時に比べるとはるかに多い感染者を出しながら、自粛要請は「後退」しているように見える。なぜか。

感染者は数十倍なのに規制は限定的に

2020年4月に出された最初の緊急事態宣言では、同7日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡が対象となり、16日には全47都道府県へ拡大。対象業種も前回宣言では飲食店や映画館、劇場、百貨店、大型ショッピングセンター、ホテル、博物館、図書館など幅広い施設に臨時休業や営業時間短縮を要請したが、今回は飲食店などに絞り込む。 

感染者数が前回宣言時よりもはるかに多いにもかかわらず、より対象を絞り込むと同時に自粛要請の内容も緩和している。

第1次・第2次の緊急事態宣言比較
  第1次 緊急事態宣言 第2次 緊急事態宣言 比 較
実施予定期間(全面解除日) 2020年4月7日〜5月6日(5月25日) 2021年1月8日〜2月7日
対象地域 7都府県(東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡)→全47都道府県 4都県(東京・神奈川・千葉・埼玉) 緩 和
飲食店 居酒屋などの営業時間短縮 20時(酒類提供は19時)まで
バー・カラオケ 休業要請 同上 緩 和
商業施設 大型施設に休業要請 同上 緩 和
イベント 中止または延期 5000人までまたは定員の半分まで 緩 和
教育機関 全国一斉休校(宣言前からの継続) 一斉休校の要請はしない 緩 和
保育所 登園自粛と受け入れ人数の縮小 通常通り 緩 和
企 業 出勤者の7割削減 出勤者の7割削減
国 民 不要不急の外出を自粛し、接触を8割減 20時以降の外出を自粛、数値目標なし 緩 和
宣言前日の国内新規感染者数 234人(2020年4月6日) 7570人(2021年1月7日) 32.3倍

第1の理由は経済への打撃を最小限に抑えるためだ。前回の緊急事態宣言では感染者数が少ない県にまで枠を広げた結果、全国的に経済活動がマヒすることに。2020年4-6月期の実質国内総生産(GDP)速報値は前期比年率で27.8%減と、GDP統計をさかのぼれる1955年以降で最大の落ち込みとなった。

前回の緊急事態宣言では感染者が少ない地域でも、感染拡大地と同様の自粛を求めたことが「行き過ぎ」と批判された。全国一律の緊急事態宣言で大打撃を受けた地方の観光・飲食業を救済するため、政府が多額の補助金をつけて「GoTo キャンペーン」を展開。これが感染の「第3波」を招く結果になったとも言われている。今回の緊急事態宣言では経済損失を抑えるためにも、地域と自粛要請を最小限に抑えたわけだ。

予算とワクチンが規制を緩和させた

第2の理由は自粛に伴う協力金や休業補償などの支払い抑制だ。2020年6月に成立した2020年度第二次補正予算にコロナ対策が盛り込まれ、同年度の歳出は160兆円を超えた。政府は増大するコロナ予算に危機感を強めている。

同12月に閣議決定した2021年度の当初予算案ではコロナ対策が謳(うた)われているものの、その内容は「コロナ後」にフォーカスされている。例えば業績が悪化した中小企業を救済する「持続化給付金」の申請は2021年1月15日に終了。その後は業態転換した企業への補助金に切り替える。

企業の休業手当を政府が補助する「雇用調整助成金」の上限額を引き上げる特例措置も同3月以降に見直される。「家賃支援給付金」も打ち切られ、コロナ禍で苦しむ企業に対する救済型支援はフェードアウトする方向だ。企業としてもM&Aや事業売却などで業態変換する戦略を早急に検討すべきだろう。

前回並みの自粛要請を実施すれば、再び救済型支援の予算が増大することになる。政府内部には「コロナ救済型支援で、本来は市場から退場すべき企業が生き残ってしまう」との声もあがっている。「ゾンビ企業の増加につながりかねない」と政府が懸念する救済型支援を抑えるためにも、緊急事態宣言による自粛要請を最低限に絞り込みたいのだ。

第3の理由は今回の緊急事態宣言の最大の目的が「時間稼ぎ」であること。すでに海外では新型コロナウイルスワクチンの接種が始まっており、日本でも早ければ2月にも輸入と接種が始まる。さらには気候が暖かくなれば、感染拡大のペースが落ちるとの期待もあるという。

新型コロナ感染の収束が見えてきた現在、前回より踏み込んだ制限を課す必要はないとの判断だ。さらには再び厳しい制限を課すと「コロナ疲れ」した国民から反発を買うおそれもある。事実、欧米では長期化する行動規制に反対するデモが頻発した。

同じ「緊急事態宣言」でも、前回と今回とでは全くの別物なのだ。ただ、新規感染者数は前回宣言当時の数十倍に達しており、ワクチンも計画通りに輸入して接種できる保証はない。現在のワクチンが効かない変異種が出ないとも限らず、一つでも「想定外」の事態が起これば極めて深刻な事態となるだろう。

それを危惧して厳しいロックダウン(都市封鎖)を再び決断した欧米と、「第一波」よりも緩やかな対策で乗り切ろうとする日本。どちらの判断が正しかったかは、今春にも明らかになるだろう。

文:M&A Online編集部