相次ぐ巨大病院相手の「談合」事件、医薬品卸だけが悪いのか?

alt
値下げ圧力と進まぬコストダウンで医薬品卸は談合に追い込まれた?(写真はイメージ)

またも医薬品卸に談合疑惑が浮上した。公正取引委員会は2021年11月19日、独立行政法人国立病院機構の医薬品入札で談合があったとして九州の医薬品卸6社の立ち入り検査を始めた。昨年12月に別の医薬品卸3社が入札談合の容疑で公取委に刑事告発されている。なぜ、こうも医薬品卸による談合が相次ぐのか?

卸への「過酷な要求」が業界再編を推進し、談合を招いた

国立病院機構は一括発注による「スケールメリット」があるとして医薬品の入札で値下げ圧力をかける。確かにこれにより、かつての各国立病院が個別発注していた時代よりも薬品の卸価格は大幅に下がった。

だが「薬品は国立病院機構の物流拠点に一括納入して終わりではなく、従来通り各病院へ個別配送しなくてはならない。結局、デリバリーは丸投げだから、卸業者は拠点も人員も削減できないという。販売価格は下がるが、コストは下げられない。だから談合して値下げを阻止するしかないのだ。

一方で国立病院機構も厚生労働省から運営コストの削減を強く求められており、1円でも安く医薬品を仕入れざるを得なくなっている。医療行政と国立病院機構の「プレッシャーの連鎖」が、医薬品流通の現場を歪めているのだ。

昨年12月に刑事告発された談合事件も構造は同じだ。発注者は全国34都道府県で57病院を運営する独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)。所管する複数の病院が利用する医薬品は2年に1度、まとめて入札にかけて納入業者と単価を決めているという。

国立病院機構もJCHOも全国の病院への納入を前提としているため、入札に参加できるのは全国展開する大手4社に限られる。医薬品卸業界は再編が進み、シェアの約8割をこの4社が占める。こうした医薬品卸の寡占化が談合体質を生んだとの指摘もあるが、それは「原因」と「結果」が逆だ。

患者が支払う薬価(小売価格)は定められているのに、卸価格は自由競争という「歪んだ市場構造」が、医薬品卸を業界再編へ追い込んだと言える。

医薬品流通では最も弱い立場の卸業者に負担を強いる業界構造のままでは、談合体質は改まらない。彼らは「荒稼ぎ」をするためではなく、「生き残る」ために談合を繰り返しているからだ。患者を含め、医薬品にかかわる全てのプレーヤーが「痛み」を分かち合うことで、問題解決を図るべきだろう。

文:M&A Online編集部