「大阪ワクチン」開発中のアンジェス、株価が伸び悩んでいる理由

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「大阪ワクチン」こと、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの開発を進めているアンジェス<4563>の株価がさえない。臨床試験の「出口」も見えるなど、国産ワクチン開発で最も注目されているアンジェス株が、なぜ投資家の評価を得られないのか?

一時は2500円近い高値をつけたが…

2020年2月28日には375円まで下げたアンジェス株だが、3月5日に「新型コロナウイルス感染症に対するDNAワクチンの共同開発」を発表。4月14日には吉村洋文大阪府知事が「7月に治験が始まり、9月には実用化を目指す」と、同社のワクチン開発に大きな期待を示したことから株価が高騰した。6月26日には2492円の年初来高値をつけている。

しかし、その後は株価が低迷。11月20日には大阪大学と共同開発中のワクチンについて第2/3相臨床試験を開始するめどがついたと発表したものの、株価は続落した。12月8日には開発中のワクチンで投与対象を増やした臨床試験(治験)でのワクチン接種を始めたと発表し、同日の終値は44円高の1331円となった。それでも年初来高値の半値に近い水準に留まっている。なぜか?

理由1 ワクチン開発で出遅れた

すでに米ファイザーや英アストラゼネカが第3相臨床試験を終え、ワクチンの出荷を始めている。早ければ年内にも一部で接種に入るようだ。一方、アンジェスは7月にワクチンの第3相臨床試験に入る予定だったが、実際には11月に第2/3相臨床試験が始まり、2021年3月頃に試験接種が完了するという。1万~数万症例を対象にした最終段階の第3相臨床試験が始まるのはそれからだ。

臨床試験が進むアンジェスの新型コロナワクチン(同社ホームページより)

毒性の強い抗がん剤では第2相臨床試験で有効性が認められた時点で承認申請するケースもあるが、すでに第3相臨床試験をクリアした製品が存在するコロナワクチンで認められる可能性は低いだろう。第3相臨床試験中ながらロシアで大量摂取が始まった同国製ワクチン「スプートニクV」も、安価ながら西側先進国で導入の動きがない。

アンジェス製ワクチンの出荷は2021年後半以降になる可能性が大きい。その頃にはファイザーはじめ外国産ワクチンの輸入が本格化しているだろう。国産で最も開発が進んでいるとされるアンジェスのワクチンだが、発売される頃には先行する欧米製のワクチンが普及しており、もはや「出番がない」かもしれない。

「次のコロナ需要」がなければ収益に貢献せず

国産ワクチンに取り組んでいる医薬品メーカーは、たとえ開発が遅れても「技術を完成しておけば、次のコロナ流行時に国産ワクチンを迅速に供給できる」と、「次のコロナ需要」を狙った開発を継続している。だが、新型コロナウイルス感染症が季節性の流行をするとは限らない。

およそ100年前に1億人超える死者を出したともいわれる「スペイン・インフルエンザ(スペイン風邪)」を引き起こしたH1N1亜型のA型インフルエンザウイルスは、その後も流行を引き起こしたものの大量の死者は出していない。新型コロナウイルスもそのような経過をたどれば、同ウイルス用のワクチンの需要は限定的となる。

こうした事情から、投資家が今後のアンジェスの業績を不安視しているのだ。

理由2 大型買収で株式の希薄化が進んだ

アンジェスは11月9日、すでに発行済み株式の約4割を保有する米エメンドバイオの、残る約6割の株式を2億5000万ドル(約260億円)で取得すると発表した。同社はアンジェスの本業である遺伝子医薬品を開発する上で重要なゲノム編集技術を持つ。

本来なら株価が上昇してもおかしくないが、エメンドバイオの買収資金として発行済み株式の約2割に当たる自社新株を発行すると発表したことから、アンジェス株の需給悪化を懸念した個人投資家らの売りが膨らんだ。これまでもアンジェスは増資を繰り返しており、その度に株価が低迷している。

理由3 業績の伸び悩み

アンジェスの2020年12月期第3四半期(1月〜9月)累計の売上高は前年同期比91.2%減の2800万円と10分の1以下に、本業の収益を示す営業損失は前年同期よりも4億9900万円膨らんで28億5700万円に拡大した。

ムコ多糖症VI型治療薬「ナグラザイム」が2019年12月期第2四半期(4〜6月)で販売終了したことで1億7000万円の減収となったことや、新型コロナワクチンの臨床試験などの研究開発費が前年同期比で2億9300万円増えたことで経費が膨らんだ。

2020年12月期通期業績見通しについては「新型コロナワクチン開発などを含めて数値の算出が困難」と非開示にしているが、19期連続の連結最終赤字は避けられない情勢だ。直近では新型コロナワクチン以外に業績の「起爆剤」となる材料に乏しく、投資家が手を出しにくい状況になっている。

文:M&A Online編集部