ホンダがエンジンを捨て、EVに「本気」を出す三つの理由

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2021年4月に就任したホンダの三部敏宏社長が2040年にエンジン車の発売を全面的に停止すると表明した。ホンダといえば自動車だけでなく、オートバイや船舶用、汎用と幅広い分野のエンジンを供給する。ホンダが「エンジンメーカー」と呼ばれる所以(ゆえん)だ。そのホンダが脱エンジンに踏み切る理由とは何か?

理由1 トヨタにハイブリッド車で勝てないから

2040年というと遠い未来のように感じるが、今から20年前は2001年。すでにハイブリッド車(HV)が発売されていた。エンジン車を手がける自動車メーカーにとって、HVは環境対応車(エコカー)の「切り札」。トヨタ自動車<7203>は、現在もエコカーとしてHVの優位性をアピールしている。

ホンダも1999年に初のHV「インサイト」を投入。以来「フィット」や「アコード」といった既存車種にも展開し、現在7車種のHVを販売している。しかし、1997年に世界初のHV「プリウス」を発売したトヨタに先行され、「アクア」や「カローラ」はじめ23車種(プラグインハイブリッド車を除く)を展開する同社の後塵を拝する状況が続く。

世界初の「プリウス」以来、トヨタはHVで世界をリードし続けている(同社ホームページより)

2020年通年のHV国内販売台数でもトヨタの51万5160台に対して、ホンダは15万8828台と3分の1以下だ。HVでエコカーのトップに躍り出る可能性は低く、競争は不利になるばかりだ。なので、トヨタが本格的に参入していないEVで勝負に出ることにしたのである。

理由2 日産にハイブリッド車で猛追されているから

一方、ホンダはHV市場で後発メーカーの追い上げにも直面している。日産自動車<7201>だ。カルロス・ゴーン社長・会長時代の日産におけるエコカー戦略は「EV一本槍」で、HVはあくまで「おまけ」程度の存在だった。だが、2010年に発売した世界初の量産型EV「リーフ」が旧式化し、販売が低迷。そこで2016年に「ノート e-POWER」を投入する。

同車はシリーズ方式のHVを採用。これはエンジンを発電専用とし、モーターのみで走行する「発電機付きEV」で、乗り心地はEVに近い。そのためHVとしては後発で、ベース車である「ノート」のマイナーチェンジ版として発売されたにもかかわらず、ヒット車となった。2020年のフルモデルチェンジではHV専用仕様となっている。

e-POWERの投入で年間国内販売トップとなった「ノート」(同社ホームページより)

日産には9車種のHVがあるが、うち4車種のシリーズ方式HVで販売を伸ばし、2020年のHV国内販売台数は12万1263台とホンダに迫っている。この勢いのまま日産にHV販売台数で追い抜かれて3位に転落すると、CVCCエンジン以来の「エコカーメーカー」としてのホンダブランドは地に堕ちる。そうなる前にEVシフトを急ぎ、「エコカーメーカー」ブランドの再構築を狙っているのだ。

理由3 米国と中国で絶対に負けられないから

ホンダは国内よりも米国と中国の市場に大きく依存しているメーカーだ。そのため厳しい環境規制が予定されている両国で競争力を維持するには、EVのラインナップを充実するしかない。もはやHVでは世界1位と2位の巨大市場では勝負できないと決断したのだ。

EVで出遅れているホンダが頼ったのは、米ゼネラル・モーターズ(GM)だった。2020年4月にGMが開発したグローバルEVプラットフォームと独自の「Ultium(アルティウム)」バッテリーを搭載した、ホンダブランドの新型EV2車種を共同開発することで合意した。

2024年にホンダブランドの「プロローグ」と高級車であるAcura(アキュラ)ブランドの、電動スポーツ用多目的車(SUV)2モデルを発売するという。ホンダ初の量産EV「Honda e」は全長3.895m、全幅1.750m、全高1.510mの小型EVで、航続距離も283kmと「セカンドカー」向けのモデル。欧州と日本でしか販売されておらず、米国での投入予定はない。

ホンダを世界企業にした米国市場では、環境問題に「後ろ向き」だったトランプ政権が1期で倒れ、代わって環境ビジネスで米国経済の成長を狙うバイデン政権が誕生した。米国の自動車ビジネスは一気に風向きが変わり、EVなしには成長どころか生き残りも難しくなっている。そこで米国市場で勝負できる電動SUVをGMと共同開発し、EVビジネスの「垂直立ち上げ」を狙う。

世界最大の自動車市場である中国では、2021年4月の「上海モーターショー2021」にホンダブランドのEV試作車「Honda SUV e:prototype」を出展した。中国では米国よりもひと足早く2022年春に、同試作車がベースとなる量産EVを初投入する。ホンダは今後5年以内に10機種のEVを中国で展開するという。

ホンダは中国市場で自社初の量産EVとして「e:prototype」ベースの新型車を投入する(同社ホームページより)

EVの普及が急速に進む米中市場で、ホンダの挑戦がいよいよ始まった。しかし、そこは欧米日中の大手自動車メーカーに加え、証券市場で巨額のマネーを吸い寄せるEVベンチャーが「血で血を洗う」激戦地だ。そこにはホンダの死命を制する「絶対に負けられない戦い」がある。HVのような「敗退」は許されない。

文:M&A Online編集部

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