4630万円誤振込で判明!フロッピーは、なぜ生き残ったのか?

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いまだ現役だったとは!山口県阿武町が新型コロナ給付金4630万円を1世帯に振り込んだ事件で、町役場と金融機関とのデータのやり取りにフロッピーディスク(FD)を利用していたことが判明し、話題になっている。かつてはパソコン用の外部記憶媒体として一般的だったが、現在ではほとんど見かけなくなった。なぜこんな古い記憶媒体が生き残っているのか?

フロッピーが生き残っているのは「誕生した時代」が大きい

FDは磁気記録媒体の一種で、8インチFDが1970年に誕生。1976年に5.25インチ、1980年にソニーが開発した3.5インチと小型化してパソコンに内蔵が可能となり、使いやすさから一気に普及する。しかし、1枚当りの容量が上位規格の2HDで1.6〜2MBと少なかったことから、音声や画像などのデータを取り扱うことができなかった。

そのため2000年以降は光ディスクのCD-ROMや書き込み可能なCD-RAM、ミニディスク(MD)などに世代交代している。その後はCD-ROM/RAMやMD、さらに大容量のDVD-ROM/RAM(最大100GB)ですら保存データの大容量化に追いつかなくなり、外部記憶装置が不要で大容量のフラッシュメモリーやクラウドに置き換わった。そんな時代に、なぜ今さらFDなのか?

そこにはFDの登場した時代背景がある。FDが一般的な外部記憶媒体だった1970〜80年代は家庭用パソコンに先行して中小企業などでオフィスオートメーション(OA)やファクトリーオートメーション(FA)の本格的な導入が始まった時期に当たる。

この時に導入したシステムは、当時最先端だったFDでデータの保管ややり取りをしていた。そのシステムを依然として利用している事業所が意外と残っているのだ。山口県では阿武町役場はもちろん、地方銀行の山口銀行や第二地方銀行の西京銀行もFDでのデータ取り扱いを続けているという。

古いシステムの方が使い勝手は上、だから生き残る

「なぜ40年以上も前の規格のまま使い続けているのか?」と不思議に感じるかもしれない。これもまた当時のIT事情による。最近の中小企業では業務用のアプリやクラウドサービスをカスタマイズして利用するのが当たり前となっていて、OS(基本ソフト)がバージョンアップすれば使用環境もアップデートされる。外部記憶媒体も更新される。

1970〜80年代はそのようなアプリや、ましてやクラウドサービスなどは存在せず、専門業者に依頼して一からシステムを構築する完全な「オーダーメード」だった。オーダーメードだから使い勝手はその会社に最適なものとなっており、現場で更新の必要性は感じられない。むしろこうした既存のシステムを使い続けるために、1970〜80年代の中古パソコンが高値で取引されているほどだ。

それでも顧客や取扱商品、拠点などの数が増加すればデータ量も増え、FDでは対応できなくなる。だが、人口が増えない地方自治体や急成長しない中小企業が数値や文字だけのデータを処理しているのなら、FDで十分に足りるのだ。

現在も通信販売などでFDが盛んに販売されている。一方、CD-ROM/RAMやMDといった後発の光ディスクの方が出品点数が少ない。これは光ディスクが本格的に普及した1990年代以降は中小企業で安価な業務用アプリの導入が進み、システム更新に伴いクラウドなどへ移行して光ディスクを利用する企業が減少したためとみられる。

音楽用のMDが入手困難になる一方、それよりも古いカセットテープが容易に入手できるのと同じ傾向と言えるだろう。

ちなみに今回の振り込み事故はFDのせいではなく、人為的なミスだ。仮にデータのやりとりがフラッシュメモリーやインターネットであったとしても防げなかった。IT事故防止の最後の砦は、いつになっても「人」なのである。

文:M&A Online編集部