仏ルノーが日産自動車<7201>に対して、経営統合を再度提案していることが明らかになった。国内メディアの多くは「経営統合を棚上げしたはずのルノーが態度を一変した」と驚きをもって報じている。が、「経営統合を棚上げ」とされた2019年3月12日の共同記者会見でも、ルノーのジャンドミニク・スナール会長、日産の西川廣人社長兼最高経営責任者(CEO)ともに「今回の議題ではなかった」と述べたにとどまり、経営統合の見通しについてはコメントを避けている。
つまり、ルノーばかりか日産も経営統合について「見直し」や「延期する」とは、一度も表明していない。日産側としてみれば「いきなりこのタイミングなのか?」という驚きがあったかもしれないが、ルノー側は「既定路線」の経営統合を粛々と進めているという感覚だろう。
それにしても、なぜこのタイミングなのか?ルノーにとって「既定路線」であるならば、なぜ3月合意のトップ会談で経営統合を持ち出さなかったのか?そこにはルノーの用意周到な「外堀埋め」があった。
3月の共同記者会見を受けて、日産の会長職を求めないことで「ルノーが譲歩した」との報道が多かった。事実、日産側もそのように理解したようだ。しかし、注目すべきは「ルノー日産BV」に代わる新統括組織「アライアンス・オペレーティング・ボード」の主導権だ。ルノー日産BVでは形式上とはいえルノーと日産のメンバー数は同じだったが、アライアンス・オペレーティング・ボードではルノーは2人、日産は1人と不平等な関係になった。
ボードメンバーがフランス側2人、日本側が日産、三菱自動車工業<7211>の計2人で平等という見方もあるが、日本側2社はあくまで別会社だ。おまけにかつては「日産三菱BV」で日産が三菱自動車の経営を支配していたものの、同BVの事実上の解散とアライアンス・オペレーティング・ボードへの移行により日産と三菱自動車の力関係は「ルノーの前に平等」となっている。今となってはルノーと日産の経営統合で、三菱自動車が反対に回る必然性はない。
3月合意は、ルノーが日産の会長職を諦めるかわりにアライアンス・オペレーティング・ボードで主導権を握る「妥協」とも受け取られた。が、ホールディングス(持ち株会社)の前身といえるアライアンス・オペレーティング・ボードのトップポストと、将来は子会社となる日産の会長ポスト、どちらが重要なのかは言うまでもないだろう。
そもそも日産がこだわる「独立性」にしても、それが同社の成長につながるかどうかについて明確な説明はない。ただ日産が「ルノーから独立したい」と主張しているだけだ。ルノーからの会長派遣阻止という形式にこだわるあまり、持ち株会社に移行する可能性が高い組織の主導権をあっさり奪われる「失態」を招いたともいえる
事実、ルノーが日産に経営統合を再び突きつけたのは同4月中旬と伝えられており、4月12日に開いた初回のアライアンス・オペレーティング・ボードで議題になった可能性が高い。そのためか同日予定されていた記者会見も中止になっている。
ルノーは新組織の発足と同時に牙をむいたことになるが、これも「計算のうち」だろう。日産は「名(メンツ)」を取り、ルノーは「実」を取ったことが、今回の経営統合の「強要」につながったとしたら日産の判断ミスは致命的だ。
自社の企業価値向上よりも独立というメンツを優先している限り、日産に勝ち目はないだろう。2019年6月に開催予定の定時株主総会で株主から独立に支持を得られるかどうかも、日産が説得力ある自主的な成長戦略を示せるかどうかにかかっている。ルノーとの経営統合阻止に右往左往するよりも、優先すべきはそちらだろう。
文:M&A online編集部