金価格は「史上最高値」なのに、貴金属買取業者が倒産した理由

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金価格の高騰にもかかわらず買取業者が倒産した。その意外な理由とは…(写真はイメージ)

ロシア軍によるウクライナ侵攻で「有事の金」が暴騰している。3月7日の大阪取引所でが金の先物価格が1gあたり7377円まで上昇し、過去最高値を更新した。そうなると金などを取り扱う業者は好調なはずだが、貴金属買取・販売の甘露商事(東京都台東区)が約25億円の負債を抱えて倒産した。なぜか?

消費税増税直後の一斉捜査で発覚

同社は3月2日付で、東京地方裁判所から破産手続の開始決定を受けた。負債総額は約25億円。同社は「東日貴金属」の店名で、金やプラチナ、銀といった貴金属の買い取りや販売を手掛けていた。

ところが2020年10月、東京国税局に消費税の不適正な申告を指摘され、2019年8月期までの3年分について過少申告加算税を含め約24億円を追徴課税(更正処分)される。その結果、急速に甘露商事の資金繰りが悪化して事業継続が困難になった。

捜査のきっかけは、その前年の消費税率の引き上げ。これにより不正利得が増える余地ができたのに伴い脱税が増えるのではないかと懸念した東京、大阪など7国税局が、消費税の不正申告に特化した初の全国一斉調査に踏み切った。その「網」にかかったのが甘露商事だった。

同社は中国人旅行客などから仕入れた金地金を販売し、仕入れ税額控除後の消費税を納めていた。仕入れ税額控除とは、生産や流通などの各取引段階で二重、三重に税がかかることがないよう、課税売上にかかわる消費税額から課税仕入れにかかわる消費税額を控除し、税が累積しないようにする仕組み。

仕入先が不正確として控除が認められず

例えば生産企業が流通企業に100円で商品を納入した場合は10円の消費税がかかる。次に流通企業が小売企業にその商品を200円で卸すと20円の消費税がかかる。最終的に小売企業が400円で消費者に販売すると40円の消費税がかかる。すると最終的に400円の商品で総額70円の消費税が納付されることになる。

そこで、流通会社が納付する消費税20円から仕入先の生産会社が納付済みの消費税10円を差し引いた10円を、小売会社が納付する消費税40円から仕入先の流通会社が納付済みの消費税20円を差し引いた20円を、それぞれ控除する仕組みだ。すると実際に納入する消費税は生産会社が10円、流通会社が10円、小売会社が20円となり、その合計は最終価格の消費税40円と同額になる。

東京国税局が甘露商事の帳簿を調査したところ、金地金を仕入れた中国人の多くが取引日時にはすでに出国済みだったことが判明。この何が問題だったのか?実は仕入れ税額控除の適用には「仕入れ先の氏名などを帳簿に正しく記載しなければならない」とする要件がある。

東京国税局はこの要件を満たさないと判断して甘露商事の仕入れ税額控除を認めず、追徴課税に踏み切ったのだ。甘露商事は「会社が顧客の出入国記録まで確認できない。取引や申告は適正だ」と反論したが、そもそもその時に日本にいなかった個人から金地金を仕入れるのは不可能な話だ。全くの別人から仕入れたことになる。

甘露商事に悪意はなかったとしても、仕入れ時の本人確認が万全でなかったことは間違いない。不特定多数の個人を相手とした買取業者だけに、顧客が別人であるリスクはある。この「落とし穴」にはまった甘露商事は、金高騰という絶好の追い風の中で「退場」することになった。

文:M&A Online編集部