米ネットニュースメディアのバズフィードは2020年11月19日、ベライゾン・メディア傘下のハフポストを買収すると発表した。米大手2社が統合することで、ネットニュースメディアの再編が加速しそうだ。
それにしても解せないのは、ベライゾン・メディアが「お荷物」として売却を模索していたハフポストを同業のバズフィードが買収する理由だ。これまでネットニュースを買収するといえば、インターネットのポータル(玄関)サイトや通信インフラ業者の「客寄せ」が相場だった。
事実、ハフポストも2005年にリベラル派のニュースサイトとして開設されたが、2011年にインターネットプロバイダー・ポータルサイト運営の米AOLが3億1500万ドル(約327億円)で買収。落ち目となっていたAOLのイメージを立て直し、ポータルサイトへのアクセスを取り戻すため、ページビュー(PV)の高いニュースサイトのハフポストを引き入れたのだ。
しかし思惑通りに事は進まず、AOLは経営不振に。2015年にAOLがベライゾン・コミュニケーションズに買収されたため、同社グループに入った。ハフポストは現在でも高いページビュー(PV)を誇るが、収益化(マネタイズ)には苦労している。
ネットニュースメディアの主な収益源はネット広告だが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴う消費の落ち込みで業績は一層低迷した。ベライゾンとしては業績不振のハフポストを一刻も早く手放したかったのだろう。現金(キャッシュ)のやりとりが発生しない株式交換でバズフィードに譲渡した。
とはいえ、バズフィードもコロナ禍によるネット広告出稿の激減に直面。2020年3月に年間損失を2000万ドル(約20億7000万円)未満に抑えるため、従業員の給与を5〜10%、幹部の給与を14〜25%削減したのに加え、5月には英国とオーストラリアからの事業撤退を決め、経営陣を含めた68人の一時解雇にも踏み切っている。
そのバズフィードがハフポストの買収に手を挙げたのは、株式交換でキャッシュが流出しないこともあるが、何より第3四半期(7−9月)に広告スペースの販売が2桁成長となり、成功報酬型(アフィリエイト)広告では前年同期比50%増となるなど、業績の急回復が大きい。
バズフィードは元々、ネイティブ(記事体)広告やブランデッドコンテンツ(ブランドイメージを向上するために直接サービスや商品を紹介しない)広告が主流だったが、現在ではそうした広告は全体の約2割程度という。成長しているのは、いわゆる「一般的な広告」である純広告だ。
バズフィードは「ワース・イット(Worth It)」などの動画コンテンツの最初や途中で広告を流したり、個々の記事にそれぞれ独立した広告スペースを設けたりするなど、広告枠を拡大している。増えた広告枠を効率的に販売するため、自動オークションで販売するプログラマティック広告に参入した。
「ここ3年間で自社の収益構造を本当に変えた」とバズフィードのジョナ・ペレッティ最高経営責任者(CEO)が胸を張るように、コロナ禍による広告不況にもかかわらず同社は2020年に黒字を計上する見通しだ。
一般の広告枠をプログラマティック広告で自動販売するためには、高い信用力と注目度を持つコンテンツが必要になる。ハフポストのような名門ネットニュースは、まさにうってつけのコンテンツなのだ。バズフィードがハフポストを買収したのは同社の収益力ではなく、コンテンツ力に期待したからだ。
独立系では世界での最大手の両サイトだが、「売り」と「買い」に立場が分かれたのは広告によるマネタイズに成功できたか否かによる。これから起こるであろうニュースサイトの業界再編の主導権を握るのは「ニュースの覇者」ではなく「広告の覇者」になりそうだ。
文:M&A Online編集部