ニトリが異業種の島忠TOBに「横やり」を入れる理由

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DCMホールディングス<3050>による島忠<8184>TOB株式公開買い付け)に「待った」がかかった。ニトリホールディングス<9843>が島忠買収に動き出すとの報道が飛び出したのだ。

とりあえず「否定」も買収候補として名指し

報道翌日の2020年10月21日、島忠は「具体的な提案は受領しておらず、決定している事項もありません」と報道を否定。一方のニトリも同日「現時点で決定している事実はございません」とのコメントを発表した。

が、ニトリは同コメントの中で「島忠も含め、M&Aを通じた成長の可能性を日々検討しています」と、すでにDCMによる友好的なTOBが進行中の同社を買収対象と見ていることを隠そうとしていない。遠からずニトリによる島忠のTOBが始まるだろう。

ニトリはいつ島忠買収に乗り出すか?(同社ホームページより)

DCMは島忠株を1株4200円で11月16日まで買い付けている。「ニトリ参入」の報道を受けて4190円前後で張り付いていた島忠株が、翌21日午前9時30分には買付価格を500円も上回る4735円に急騰。22日朝には4980円で寄り付いた。この株価が続けば、買付価格を引き上げない限りTOBは成立しない可能性が高い。ニトリも島忠の買収を実現したいなら、5000円前後の買付価格を提示する必要がある。

同様の事例は2019年のユニゾホールディングス(東京都中央区)に対するTOBで見られた。同7月にエイチ・アイ・エス<9603>が仕掛けた敵対的TOBの買付価格は、TOB公表前日の終値1990円に55.78%のプレミアムを加えた1株3100円だった。

そこにホワイトナイトとしてソフトバンクグループ<9984>系の米投資会社フォートレス・インベストメント・グループが傘下のサッポロ合同会社を通じて同8月に1株4000円で対抗TOBを実施した。両社によるTOB合戦の期待から、ユニゾ株は高騰する。

最終的には5回の買付期間延長を経て、1株6000円で従業員による買収(EBO=エンプロイー・バイアウト)による非公開化を選択。2020年4月にTOBが成立した。ユニゾはTOB資金を返済するため、6月に東京駅前の大型オフィスビル「ユニゾ八重洲ビル」や本社がある「ユニゾ八丁堀ビル」はじめ優良不動産5件を売却するなど、重い代償を支払うことになった。

島忠のどこが魅力か?異なる双方の思惑

DCMとニトリの間でTOB合戦が起これば、その勝者が割高な価格で島忠を買収せざるを得なくなる。にもかかわらずDCMは計画通りTOBを進める方針だし、ニトリもTOBに前向きだ。なぜそこまでして島忠が欲しいのか。

DCMの動機はホームセンター業界には突出したトップ企業が存在しないこと。年間売上高でみると、べイシアグループのカインズが4410億円、DCMが4373億円、コーナン商事<7516>が3746億円、コメリ<8218>が3485億円と上位集団の差が小さい。

そこでDCMが年間売上高1463億円の島忠をTOBで子会社化し、カインズを追い抜いて一気に業界トップに君臨しようとしたわけだ。ホームセンター業界はローカルチェーンの再編で寡占化が進んでおり、M&Aで乗り遅れると下位集団に転落する恐れもある。DCMとしてはTOB費用が高騰しても「後には引けない」状況なのだ。

一方、ニトリは国内家具・インテリア小売りでは「一強」であり、業界再編に乗り出す動機は薄い。しかし、主力の家具・インテリアが少子高齢化やライフスタイルの変化で、結婚や引っ越しなど生活様式の変化に伴う買い替え需要が減退している。そこで寝具や雑貨、家電などSPA(製造小売業)の強みを生かした低価格のオリジナル商品を拡大して成長を維持している。

島忠はホームセンターの中でも家具・インテリアに強く、ニトリとの親和性が高い。TSUTAYAとのコラボ店舗など、斬新な出店戦略も光る。 さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い、旅行や外食を控えた消費者がDIYや園芸などに時間とカネを投入する「巣ごもり消費」が盛り上がり、ホームセンター業界の業績は好調だ。

書店とコラボした「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ尼崎店」(同社発表資料より)

ニトリとしても、島忠が持つ巣ごもり消費に対応した商品ラインナップや異業種との協業ノウハウに関心はあるはず。そのためには同社を買収するのが手っ取り早い。自社の商品戦略に有用で、しかもコロナ禍にあっても安定した収益が見込める業種の企業だけに、後出しTOBで買収価格が高騰しても十分に「買い」だろう。ニトリが島忠のTOBで、どれぐらいの買付価格をつけるのか注目だ。

文:M&A Online編集部