【Q&A】結局、どっちが勝った?日産vs.ルノーの主導権争い

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日産自動車ホームページより

日産自動車<7201>と仏ルノーの経営主導権争いは、「ルノー日産BV」に代わる新統括組織「アライアンス・オペレーティング・ボード」を立ち上げることで、ひとまず決着。ルノーとの当面の懸案だった会長人事は、ルノーのジャンドミニク・スナール会長が「日産の会長になるつもりはない」と譲歩した。経営統合についても明言を避けたことで、国内メディアでは「日産がルノーの攻勢を防ぎ切った」との見方がもっぱら。だが、実際にはどちらが有利に交渉を進めたのだろうか?

ルノーとの関係はゴーン時代よりも対等になるのか?

Q ルノーと日産の力関係は、アライアンスの新統括組織となる「アライアンス・オペレーティング・ボード」の発足で、カルロス・ゴーン前会長時代よりも対等に近づいたのか?

A 対ルノーという意味ではノーだ。そもそもゴーン時代は「日産の上位にルノーが君臨する」というよよりも「日産とルノーの上位にゴーン前会長が君臨する」状態だった。ルノーにとって日産の経営統合は魅力的だが、2017年後半までは最大の抵抗勢力がゴーン前会長だった。結局、ルノーの筆頭株主であるフランス政府からCEO職解任をちらつかされて、ゴーン前会長は経営統合もやむなしの方向に傾いた。「ルノー日産BV」と「日産三菱BV」が事実上消滅することでゴーン前会長の「個人支配」は終わるが、アライアンス・オペレーティング・ボードの発足でルノーによる日産の「組織支配」は強化されるだろう。

Q ルノーは強く求めていた日産の会長職も断念したが…。

A 会長や社長、専務といった肩書に法的な根拠はなく、会社が勝手につける役職序列にすぎない。商法や会社法における経営陣の序列は、代表取締役と取締役のみ。スナール会長は取締役会副議長という役職序列ながら、代表権をもつ取締役だ。代表権のない会長よりも、日産に対する影響力は大きい。職位では上となる取締役会議長は社外から招聘(しょうへい)される「お飾り」で、スナール副議長を抑えることは難しいだろう。ルノーが「名を捨てて実を取った」形だ。

「外堀」を埋められた日産

Q 2019年3月12日に開いた3社共同会見では「3社の合議による経営体制」が強調されている。

A  アライアンス・オペレーティング・ボードは、ルノー2名、日産と三菱自動車が各1名の4名で構成される。「ゴーン支配の権化」と言われたルノー日産BVは、社長がルノー、副社長は日産、それに両社から3人ずつ6人の役員を加えて8人で発足した。副社長は当時日産の社長だったゴーン前会長が就任したものの、形式上は両社対等だった。新組織は最初からルノーが2名と、主導権を握る構造になっている。

Q 共同記者会見で西川廣人日産社長が「新組織は多数決で決めるようなことはしない」と明言していた。ルノーの代表が1人多いからといって、それほど影響はないのではないか?

A その直後にスナール会長が「少人数の合議なので、誰が何を発言し、誰の責任でそうなったのかが明確になる」と畳みかけるように発言した。さらには「新組織では記者の皆さんが驚くほどのスピードで事が進む」とも。悠長に「全会一致の結論が出るまで、じっくり話し合いましょう」という雰囲気ではない。

他の役員も参加するルノー日産BVとは違い、4人の会長、CEOのみが参加する新組織での評議は「トップ同士のガチンコ勝負」。スナール会長が強調した「スピード重視」となれば、日本人にありがちな「社内に持ち帰って検討します」は通用しない。その場での瞬時の意思決定が得意なフランス人トップと丁々発止でやり合うのは、日本人経営者には荷が重いだろう。結局はルノーのペースで議論が進むのではないか。

Q ルノーはアライアンス・オペレーティング・ボードを新設することで、日産の「外堀」を埋めたことになるのか?

A そういうことだ。合議で言い負かせれば、ルノーとしても「日産の合意を得た」との大義名分を得る。さらに「内堀」にも手を伸ばしている。アライアンス・オペレーティング・ボードの設置により、3社連合内で日産は自社が出資する三菱自動車工業<7211>と同格になった。

三菱自動車をコントロールする日産三菱BVも事実上廃止され、日産が直接同社にコミットできなくなる。たとえば日本国内のプロジェクトで三菱自動車が日産の方針に不満があれば、アライアンス・オペレーティング・ボードに持ち込める。そこでルノーにひっくり返されれば、日産は手も足も出ない。三菱自動車がルノーに接近すれば、日産の自主性はますます危うくなる。

見逃せない三菱自動車の動き

Q 三菱自動車が日産を差し置いてルノーに接近する可能性はあるのか?

A たとえば経営統合。日産はルノーとの経営統合をなんとしても避けたいが、三菱自動車は違う。日産は自社単独でも生き残る可能性はあるが、三菱自動車は厳しい。さりとて2018年の世界販売台数が121万8897台と規模が小さい同社だけに、新たな再編相手もそう簡単には見つからないだろう。三菱自動車としては、ルノーと経営統合ができるのであれば御の字だ。

ルノーが三菱自動車と経営統合するとなれば、「日産とのセット」以外は考えにくい。ルノーにとって三菱自動車は魅力的なパートナーではないからだ。ルノーと日産の経営統合が「ご破算」となれば、3社連合は空中分解し三菱自動車は「弱肉強食」の世界自動車市場に放り出されてしまう。三菱自動車が社運をかけてルノー・日産の経営統合に協力する可能性は十分にある。

Q スナール会長は共同記者会見で経営統合については何ら言及しなかったが…。

A スナール会長は「それは今日のポイントではない」と回答を避けただけで、「経営統合など考えていない」とも「断念した」とも言わなかったし、ほのめかしすらしなかった。日産が強いアレルギー反応を示す「経営統合」という言葉は避けながらも、新組織の立ち上げは「(連合の関係を)不可逆にする意思を強く示している」と発言している。やはりルノーにとって、日産との経営統合は既定路線なのだ。

「経営統合反対」だけでは必ず行き詰まる

Q スナール会長は共同記者会見で「各々の企業文化とブランドを尊重していく」と明言している。それでも経営統合に踏み切ると言えるのか?

A ゴーン前会長は日産とルノーで持ち株会社を設立し、その事業子会社としてルノーと日産をそれぞれ置く経営統合を提案していた。そのやり方だとすれば「各々の企業文化とブランドを尊重」しつつ、経営統合が可能になる。ルノーにとっては「稼げる体質」の日産を吸収合併して「ルノー化」しては元も子もない。あくまで現在の日産のまま、支配下に置きたいのだ。ゴーン前会長の経営統合案やスナール会長の発言からは、そう受け取れる。

Q 結局、どちらが勝ったのか?

A ルノーが日産のメンツを保ちつつ、思い通りに事を進めている。どのみち日産は43.4%の株を持つ筆頭株主であるルノーの意向には逆らえない。株主の権利は強大であり、それが資本主義のルールだ。最初から勝負はついている。

Q ルノーと日産の経営統合は避けられないのか?

A 日産がどんなに強く「経営統合反対」を主張したところで、結局はルノーに抑え込まれるだけだ。日産も頑なに経営統合を拒否するのではなく、経営統合した後に持ち株会社で主導権を握る方向に転換した方がよい。日産の成長がルノーを上回れば、いずれ持ち株会社での主導権は回ってくる。そうなれば日産は独立性を取り戻すどころか、ルノーの経営も支配できるはずだ。いつまでも「守る」のではなく、「攻め」に転じたい。日産は「意識」を切り替える時期に来ている。

文:M&A Online編集部