政府が普及を急ぐ「山梨モデル」、コロナ対策の切り札になるか?

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政府が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の一環として「山梨モデル」の導入を全国の都道府県知事に要請していたことが分かった。飲食店でのクラスター(感染者集団)発生を防止するための取り組みだが、「山梨モデル」とは何か?そして感染予防に効果はあるのか?

県が飲食店にコロナ対策の「お墨付き」

「山梨モデル」とは山梨県が導入した、飲食店などを対象とする感染防止対策認証制度。店内の座席間隔を1メートル以上離すことやパーティションの設置、ビル管理法での空気環境基準である1人当り毎時30立方メートル以上の空気を入れ換える換気設備の導入、エレベーター乗員の制限など39項目の感染防止基準を満たしている店舗に「やまなしグリーン・ゾーン認証」を与える。

店舗側の「自主申請」ではなく、自治体の職員が実地検査をして認定するのが特徴だ。山梨県では4047軒の飲食店が同認証を受けているという。

4月27日に山梨県の長崎幸太郎知事が菅義偉首相と面会し、趣旨に賛同した22人の県知事と連名で飲食店を対象にした「山梨モデル」の導入を政府に求める提案書を提出。30日に内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長と厚生労働省生活衛生・食品安全審議官、農林水産省食料産業局長の連名で、全都道府県に「山梨モデル」を導入するよう要請する事務連絡を出した。

政府からの要請では東京都や大阪府のように飲食店数が多い自治体に配慮して、自治体の職員だけではなく業務委託を受けた民間業者でも実地検査による認証ができるようにするといったアレンジもしている。

「山梨モデル」認証店でもクラスターが発生

問題は実際の効果だ。4月21日に「山梨モデル」のグリーン・ゾーン認証を取得した飲食店で、山梨県初となる変異株クラスターが発生したことが明らかになった。

山梨県では変異株の流行拡大で制度全体を見直す必要があると判断し、4月末から来店者が入店時間や氏名、電話番号を記入した管理簿を1カ月間保存してクラスター追跡に役立てるなどの強化策に乗り出している。

しかし、医療関係者の間では感染力が強い変異株の流行では飲食店側がいくら対策を施しても会食をするだけで感染する可能性が高く、複数人による会食自体を自粛するか一斉休業するしかないとの意見もあり「山梨モデル」が変異株クラスター防止にどこまで有効かは分からない。

NHKの調査によると、人口10万人当りの新規感染者数だと山梨県は12.33人と全国で33位。決して多くはないが、特筆すべきほど少ないわけでもない。関東圏でも9.26人の栃木県(40位)は、山梨県よりも感染拡大を抑えている。

慶應義塾大学商学部の濱岡豊教授が発表した新型コロナウイルスへの都道府県の対応を「健康影響」「対策」「市民の協力」「経済影響」の観点から評価したランキングによると、上位5県は鳥取県、島根県、佐賀県、大分県、富山県の順で、山梨県は入っていない。

「山梨モデル」の内容も都道府県が「お墨付き」を与える以外は、決して珍しい取り組みではない。長崎幸太郎知事は知事当選前に衆議院議員を3期務め、自由民主党幹事長政策補佐などの要職にも就いていた。菅首相の目にも止まりやすかっただろう。そのため「山梨モデル」が政府に大きく取り上げられた可能性もありそうだ。

山梨県内の認証店でクラスターが発生したように、会食の自粛が望ましいにもかかわらず「自治体公認の認証店ならば大丈夫」との誤解が生じる恐れもある。変異株による感染拡大のタイミングで「山梨モデル」が有効という保証はない。政府が高く評価する「山梨モデル」だが、過信は禁物だ。

文:M&A Online編集部