西郷輝彦氏が望みをかけた最先端の「PSMA標的内用療法」とは

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PSMA標的内用療法の登場など、がん治療は日進月歩だ(写真はイメージ)

「星のフラメンコ」などのヒット曲で知られる歌手で、俳優でもあった西郷輝彦さんが2月20日、75歳で亡くなった。死因は前立腺がん。2011年に前立腺がんと診断されて全摘出手術を受けたが、2017年に再発していた。2021年4月からは日本では未承認の「PSMA標的内用療法」を受けるために豪州へ渡っていたが、がんを克服できなかった。西郷さんが最後の望みをかけたPSMA標的内用療法とは、一体どのような治療なのか。

体内でピンポイントの「放射線治療」

前立腺がんの「ステージ3」での5年生存率は100%。他のがんに比べると高く、治療予後は良い。ただ、再発の危険性はあり、国内のがん死亡者数では肺がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、結腸がん、肝臓がんに次ぐ7位になっている。男性では4位と高い。

前立腺がんの標準治療としては外科手術や放射線治療、内分泌(ホルモン)療法、化学(抗がん剤)療法、積極的な治療を中断して進行を観察する監視療法や高齢者向けの待機療法などがある。西郷さんは外科手術後に再発した。そこで選択したのがPSMA標的内用療法だった、

PSMA(Prostate Specific Membrane Antigen)は「前立腺特異的膜抗原」と呼ばれるタンパク質で、前立腺がん細胞の表面の膜に多く存在する。このPSMAと結合しやすい分子に放射性物質を融合して、点滴で体内に投与する。前立腺がん表面のPSMAとしか結合しないため、がん細胞にのみ体内から放射線を照射することが可能だ。

副作用が少なく、手軽な治療法

一般の放射線治療に比べれば大量の放射線を照射する必要がないため、他の臓器に悪影響を与えず副作用が少ない。さらには3時間程度の点滴を3日間受けるだけの手軽さもあり、最先端のがん治療法として期待が大きい。ドイツやオーストラリア、米国では正式に承認されている。

日本で未承認なのは、医学的な効果に疑問があるからではない。治療に使う薬剤が放射性同位元素の輸入に該当するからで、厚生労働省ではなく経済産業省の所管だ。同治療法を承認させるためには、経産省との調整が必須となる。

ただ、本場の豪州で治療を受けた西郷さんが亡くなったことからも分かるように、PSMA標的内用療法も万能ではない。西郷さんも「PSMA標的内用療法でがんは消えたのに、PSA(前立腺腫瘍マーカー)が上がっている」と、自身のYouTubeチャンネルで不安を語っていた。

前立腺がんの5年生存率が高いのは完治したためではなく、進行が遅いのに加えてホルモン治療によってがん細胞を一時的に抑えることができているからだとも指摘されている。最先端治療のPSMA標的内用療法が日本で承認されたとしても、前立腺がんの早期発見・早期治療が重要なのは言うまでもない。

文:M&A Online編集部