アップルが「業務用」モバイル決済モビーウェイブを買収した理由

alt

米アップルがカナダのスタートアップ企業Mobeewave(モビーウェイブ)を、約1億ドル(約105億円)で買収した。同社はスマートフォン(スマホ)によるカード決済サービスを手がけるFinTech(フィンテック)企業の一つ。

iPhone一つでクレジットカード決済が可能に

スマホ決済サービスといえばPayPayをはじめとするバーコード決済などの個人向け(BtoC)サービスが話題になっているが、同社が手がけるのは企業向けのBtoBサービス。スマホアプリを使うのは店舗側で、顧客は既存のクレジットカードを提示するだけ。

クレジットカードに内蔵されたICカードを、スマホの近距離無線通信(NFC)リーダーで読み取ることで支払い(決済)を完了する。今ではほとんど見かけないが、磁気記録のみのクレジットカードでは使えない。

ICカードで読み取るため安全性が高く、顧客はバーコード決済のように自分のスマホでアプリを開いて画面を呼び出す必要もない。それどころかスマホすら不要で、財布からクレジットカードを抜き出すだけだ。スマホを使いこなせない高齢者でも、簡単に決済ができる。

BtoBサービス提供に弾み

キャッシュレス化が進み、これまでは現金商売だった小規模な小売店や外食店でもクレジットカード決済が求められるようになってきた。かつては高価な専用端末を備えた店舗でなければ利用できなかったが、日本でもSquareやAirペイといった安価なカードリーダーの普及で利用できる店舗が急増している。

モビーウェイブのサービスはスマホ内蔵のNFCリーダーを利用するため、安価なカードリーダーすら不要。スマホにアプリをダウンロードするだけ。クレジットカード決済の敷居が一段と低くなりそうだ。同社はすでに韓国のサムスン電子と「サムスンPOS」で提携。カナダ国内で実施したパイロットテストでは、1万を超える店舗や中小企業で利用されたという。

モビーウェイブのMaxime de Nanclas共同創設者は「世界には推定で2500万社の零細企業と約550万社の中小企業がある。その多くは簡単にアクセスできる手頃な価格の決済サービスがないために、ビジネスの成長が阻害されている」と指摘しており、こうした事業者向けの決済サービスを開発してきた。

今後はアップル傘下で決済サービスの開発と提供を進める。引き続き本社を置くモントリオールで開発に当たるなど、運営体制に大きな変更はない。アップルがiPhone単独で利用できるBtoBサービスを手に入れたことで、これまでは手薄だった法人需要の取り込みが加速しそうだ。

文:M&A Online編集部