それは、いきなりの改名だった。米SNS大手のフェイスブックが「メタ」に社名変更すると発表したのだ。この「メタ」は同社が次世代の主力市場と位置づける「メタバース」から取ったという。トヨタ自動車が「次はEV(電気自動車)の時代だ!」と「E」に社名変更するようなものだ。ところで、この「メタバース」って何だ?
「メタバース」はメタ(meta=超越した)とユニバース (universe=宇宙) の合成語で、意訳すれば「現実を超越した空間」であり「仮想現実(VR)」に近い概念だ。米SF作家のニール・スティーヴンスン氏が1992年に出版したSF小説「スノウ・クラッシュ」で初めて登場した小説由来の用語だ。
一般的な「メタバース」はインターネット上に構築された仮想空間で、利用者は自分自身の分身となる「アバター」として仮想空間に入場し、他利用者のアバターとの会話やゲーム、仮想通貨による商取引など現実世界に近いコミュニケーションを楽しむ。
「メタバース」の歴史は意外と長い。2003年に米リンデンラボが「セカンドライフ」でメタバースの商用サービスを開始して話題になり、2007年には月間アクティブユーザー数が110万人に達したが、その後は人気が下火となった。
リンデンラボのCEOのツイートによると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴う「巣ごもり需要」で2020年には90万人程度まで持ち直したという。
フェイスブックの月間アクティブユーザー数である29億人に比べると、ニッチとも言えないような極小市場だが、同社はそこに将来性を感じたのだろう。2004年創業したフェイスブックよりも早く立ち上がった事業だけに、従来の「VR」という呼称では古臭いと判断し「メタバース」という新語を選んだのだろう。
「セカンドライフ」がブームになった当時のパソコンのスペックは低く、VR世界の再現精度が悪いことが普及のネックになった。現在はパソコンのCPUやGPUの性能も大幅に向上している。再現精度で大きな問題はないだろう。
ただ、メタバースをよりリアルなものに近づけると操作が複雑になるという、もう一つのネックは残る。とはいえ操作しやすくすると、メタバースでできることが従来のロールプレイングゲームか集団アクションゲーム程度に制限されてしまう。
このあたりのユーザーインタフェースの作り込みが、フェイスブック改め「メタ」の社運を左右することになりそうだ。
文:M&A Online編集部