米アップルが電気自動車(EV)生産に乗り出すとの観測が出ている。2019年1月に従業員200人以上を解雇して中止したと見られていた自動運転車開発プログラム「プロジェクト・タイタン(Project Titan)」がそれ。2024年に自動運転EVの生産開始を目指し、基幹部品となる車載電池などの開発を進めているという。
アップルは自社製品のスマートフォンやパソコンなどを委託生産している。それらに比べて大きな設備投資が必要なEVとなると、当然ながら他社へ生産を委託することになるだろう。では、どこへ委託するのか。EVといえども「自動車」なので、自動車メーカーに委託するのが自然だ。
最も親和性が高いのはEVメーカーだ。アップルは生産能力が高く、生産コストの安い企業を外注先に選ぶ傾向がある。アップルの「iPhone」や「iPad」「MacBook」などを委託生産する台湾の鴻海精密工業は、電子機器を受託生産するEMSの世界最大手だ。アップルEVの委託生産先も、EV生産の大手となるはずだ。
2019年1〜11月のEV・プラグインハイブリッド(PHV)世界販売ランキングを見ると、トップは米テスラだ。が、テスラは3万5000ドル(約360万円)から販売している「モデル3」の生産に手一杯で、委託生産を受ける余力はない。
さらにアップルEVはブランド力が高いため、低価格車ではないと予想される。そうなれば、テスラ車と競合するだろう。テスラがアップルEVの量産を受託する可能性は低い。
2位の独フォルクスワーゲン(VW)や4位の独BMW、6位の独メルセデス・ベンツ、7位の仏ルノーなどの欧州企業は先進国だけに生産コストが高い。そうなると中国メーカーに委託する可能性が高そうだ。
<EV・PHVの2020年1−11月世界販売ランキング>
順位 | メーカー名 | 国籍 | 2020年1-11月販売 |
---|---|---|---|
1 | テスラ | 米国 | 407,710 |
2 | フォルクスワーゲン | ドイツ | 166,745 |
3 | 比亜迪(BYD) | 中国 | 151,841 |
4 | BMW | ドイツ | 137,231 |
5 | 上汽通用五菱汽車(SGMW) | 中国 | 127,787 |
6 | メルセデス・ベンツ | ドイツ | 113,771 |
7 | ルノー | フランス | 97,450 |
8 | ボルボ | スウェーデン | 94,346 |
9 | アウディ | ドイツ | 91,949 |
10 | 現代自動車 | 韓国 | 81,873 |
11 | 上海汽車集団(SAIC) | 中国 | 80,668 |
12 | 起亜自動車 | 韓国 | 77,293 |
13 | プジョー | フランス | 58,932 |
14 | 広州汽車集団(GAC) | 中国 | 54,602 |
15 | 日産自動車 | 日本 | 53,590 |
16 | 長城汽車(Great Wall) | 中国 | 44,638 |
17 | トヨタ自動車 | 日本 | 43,034 |
18 | ポルシェ | ドイツ | 38,109 |
19 | 上海蔚来汽車(NIO) | 中国 | 36,843 |
20 | 奇瑞汽車(Chery) | 中国 | 36,636 |
(出典 EV Sales)
中国のEV生産最大手は比亜迪(BYD)。同社はリチウムイオン電池生産量世界第3位で、2020年4月にはバッテリー発火問題をクリアし、電池容量も増やした新型車載電池を発表している。電池技術も高い。
独自仕様の車載電池を採用したいアップルにとっては、高い電池技術を持つEVメーカーであるBYDは最適なパートナーだろう。一方でアップルEVが車載電池世界最大手の中国CATLなど、BYD以外の電池を採用する場合は「電池兼業」がマイナス材料になるかもしれない。
BYDにとってもメリットはある。アップルEVの受託生産で生産設備を増強できるし、何より「アップルEVを受託生産している」ことで自社ブランドの向上も期待できるからだ。
既存のEVメーカーではなく、米ゼネラルモーターズ(GM)が資本参加する上汽通用五菱汽車(SGMW)のような中国現地自動車メーカーとの合弁企業を設立するかもしれない。
2024年の生産開始となると、2021年中にはEV生産拠点のめどをつけておく必要がある。委託生産先の結論が出るのは、そう遠くないだろう。
文:M&A Online編集部