通学定期が6割以上値下げされる北総鉄道とは?なぜ運賃が高い?

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「首都圏で最も運賃が高い」とも言われ、住民から訴訟まで起こされた北総鉄道(千葉県鎌ケ谷市)の運賃が2022年10月1日に改定され、平均で14.5%、通学定期では64.7%も値下げされることになった。同社が運営する「北総線」の京成高砂駅から印旛日本医大駅(32.3km)までの運賃は現在840円だが、これは「小田急線」の新宿駅から小田原駅の3駅手前にある富水駅(77.8km)までの運賃と同じ。1km当たりの運賃は実に2倍となる。なぜここまで運賃が跳ね上がったのか?

複雑な「背景」を持つ北総鉄道

そもそも北総電鉄の歴史がややこしい。同社は1972年5月に京成電鉄グループが東京都心と千葉ニュータウンを結ぶ路線を運行する北総開発鉄道として設立された。しかし、京成電鉄の経営悪化で千葉ニュータウンを開発する千葉県や1973年に千葉ニュータウン開発に参画した宅地開発公団(現・都市再生機構)、沿線自治体、金融機関が出資して第三セクター会社となる。ただ現在も株式の50%を所有する京成電鉄の子会社だ。

1979年3月に「新京成線」の北初富駅から千葉ニュータウンの入口となる小室駅までの7.9kmが開通。1984年3月には「住宅・都市整備公団千葉ニュータウン線」の小室駅〜千葉ニュータウン中央駅間(4.0km)と接続した。住宅・都市整備公団は鉄道運行を手がけず、北総電鉄が同線を使用して運行する第2種鉄道事業者となり「北総線」として営業をしている。

1991年3月に京成高砂駅から新鎌ヶ谷駅までの12.7kmが開通し、「京成線」経由で「都営浅草線」と直通運転を始めた。東京都心からの利便性は高まったが、バブル経済の崩壊で千葉ニュータウンの分譲が大きく落ち込み、将来の収支に暗雲が立ち込める。

1995年4月に「住宅・都市整備公団千葉ニュータウン線」の千葉ニュータウン中央駅と印西牧の原駅を結ぶ4.7kmが、2000年7月には印西牧の原駅と印旛日本医大駅を結ぶ3.8kmが、それぞれ完成し、北総電鉄が「北総線」に組み込んで運行を始めた。着々と路線は延長されたものの景気低迷が長引いて沿線開発は進まず、多額の建設費返済が北総鉄道にのしかかる。

親会社の負担を軽くするために運賃が高い?

2006年3月末時点での債務超過額は全国の第三セクター鉄道でワースト3に入るほど追い込まれた。しかし、地価が落ち着くと、東京都心と直結した利便性の高さもあって千葉ニュータウンへの入居者が増え、2000年度からようやく単年度黒字を計上できるようになった。

2010年7月には成田高速鉄道アクセス(千葉県船橋市)が印旛日本医大駅と成田空港高速鉄道接続点を結ぶ10.7kmの路線、成田空港高速鉄道(東京都中央区)の「成田高速鉄道アクセス線」接続点と空港第2ビル駅を結ぶ7.5kmの路線が開通したのを受けて成田空港まで直結。羽田空港と成田空港の間を直通運転するようになると、利便性も高まり利用者も増えた。

本来は都心と千葉ニュータウンを結ぶ路線だったが、成田空港とのアクセス路線の役割も(同社ホームページより)

北総線のうち京成高砂駅〜小室駅間の19.8kmが自社路線、小室駅〜印旛日本医大駅間の12.5kmが都市公団の廃止を受けて千葉ニュータウン線を約150億円で譲受した京成電鉄の完全子会社・千葉ニュータウン鉄道(千葉県市川市)の路線だ。

北総鉄道と「北総線」に乗り入れる京成電鉄は、小室駅〜印旛日本医大駅間で千葉ニュータウン鉄道の線路を借り受けて鉄道を運行している。問題は使用料で、年間総走行距離62万kmの北総鉄道が25億2714万円なのに対し、同49万kmの京成が3億7535万円。走行距離すなわち使用量は北総鉄道が約2割多いが、使用料は約7倍も支払っている。

料金訴訟の原告となった住民団体は「親会社の京成電鉄が子会社の千葉ニュータウン鉄道と示し合わせて同じ子会社の北総鉄道に使用料の大半を押し付けているため北総線の運賃が高い」と批判している。ただ、千葉ニュータウン鉄道から北総鉄道へ線路保守委託費として使用料の8割程度が「キャッシュバック」されているという。

北総鉄道は創立50周年を迎える2022年度中に、2020年度末に約31億円まで減少した累積赤字が解消される見通し。これを受けて、大幅な値下げに踏み切ることになった。

文:M&A Online編集部