2020年1月13日、米財務省は同15日に為替制度の透明性確保を盛り込んだ米中貿易協議の「第1段階」となる文書に署名するのを受けて、中国を「為替操作国」の指定から解除すると発表した。この為替操作国だが、実は日本にとっても無縁ではない。
為替操作国とは対ドルで為替介入して意図的に自国通貨を低くし、米国への輸出を有利にしようと画策している国のこと。ドルに対して通貨安となれば、自国でのコストを引き下げることなく米国での販売価格を引き下げることが可能だからだ。
たとえば1ドル=100円の為替相場では、100円の製品は1ドルで販売することになる。これが1ドル=200円の円安になると、100円の製品を50セントで販売しても日本企業は100円を得ることができる。つまり半額で販売しても利益は変わらないわけで、米国企業は価格競争上、不利になる。
米財務省は毎年2回、為替政策報告書を提出。それに基づいて米議会が不正な為替操作をしていると判断すれば、為替操作国に指定される。1980年代から1990年代にかけては台湾と韓国、中国が為替操作国に指定された。
2000年代に入ると為替操作国の指定は一段落するが、オバマ政権末期の2016年4月に米財務省が中国、台湾、韓国、ドイツ、そして日本の5カ国を為替監視国リストに入れ、同10月にスイス、2018年4月にはインドを追加した。
2019年5月になるとアイルランド、イタリア、ベトナム、シンガポール、マレーシアを追加して、スイスとインドを除外。2019年8月6日に、中国は為替操作国に指定されていた。2020年1月には台湾がリストから外れる一方、スイスが再びリスト入りしている。
米国による為替監視リストの推移(2016年4月以降)
リスト追加年月 | 国名 | 該当 | 備考 |
---|---|---|---|
2016年4月 | 中国 | 〇 | 2019年8月から為替操作国に指定、2020年1月に指定解除 |
台湾 | 2020年1月にリストから除外 | ||
韓国 | 〇 | ||
日本 | 〇 | ||
ドイツ | 〇 | ||
2016年10月 | スイス | 〇 | 2019年5月にリストから除外、2020年1月に再リスト入り |
2018年4月 | インド | 2019年5月にリストから除外 | |
2019年5月 | アイルランド | 〇 | 次回にリストから除外する可能性を示唆 |
イタリア | 〇 | ||
ベトナム | 〇 | ||
シンガポール | 〇 | ||
マレーシア | 〇 |
為替操作国に指定する基準は、以下の3つだ。
・対米貿易黒字が年間200億ドル(約2兆2000億円)以上
・為替介入のための外貨購入が1年間で6カ月以上実施され、かつ国内総生産(GDP)の2%以上
・経常黒字がGDP比で2%以上
このうち2つが該当すれば為替監視国リストに入れ、3つすべてに該当すると為替操作国の指定を検討する。
日本は為替監視国リストの常連で、今回で8回連続のリスト入りとなった。日米の長期にわたる貿易不均衡が問題視されている。日米貿易交渉でも米国が為替操作国指定をちらつかせ、自国に有利な協定を日本に強いてくる可能性が高い。
為替操作国に指定されれば関税引き上げなどの経済制裁が待っているだけに、日本経済にとっても深刻な問題になる。さりとて米国の圧力に屈して円高に誘導すれば輸出企業の業績が大打撃を受け、国内景気の悪化に加えてM&Aなどの海外投資が落ち込む危険がある。決して他人事ではないのだ。
文:M&A Online編集部