ライザップの新業態フィットネスクラブ「chocoZAP(チョコザップ)」の会員獲得がすさまじい。2022年7月のサービス開始から、わずか1年あまりの2023年8月には会員数が約75万人に達した。国内業界トップの「エニタイムフィットネス」の78万人(日本会員)、2位の女性専用フィットネスクラブ「カーブス」の77万人に迫る勢い。フィトネス業界の新たな「台風の目」となったチョコザップとは、どんな施設なのか?
月額料金は3278円(税込、以下同)で、エニタイムフィットネスの7000~1万円台、カーブスの6820円~7920円の半額以下と格安だ。これが会員が急増している最も大きな理由のようだ。なぜチョコザップは、段違いの低料金を実現できたのか。
それは 「簡単」「便利」で「楽しい」コンビニジム というチョコザップのコンセプトにある。24時間営業で全国どこのジムでも利用できるのは最大手のエニタイムフィットネスと同様だが、着替え不要でスーツ、革靴のままトレーニングできるのが他のジムにない特徴だ。
チョコザップでは「入館から5秒でスタート」をスローガンに、思い立った時に短時間だけのトレーニングを推奨している。わずか5分間のトレーニングは着替え時間を考慮すれば面倒だが、着の身着のままできるのなら気楽にできるだろう。会社の近くにチョコザップがあれば、営業の外出時と帰社時に5分間だけトレーニングをするという使い方も。会社を3回出入りすれば、それだけで30分間のトレーニングができる。
同時に店舗運営のコスト削減にもつながっている。通常のフィットネスクラブでは常設の更衣室は、着替えを前提としていないため、男女兼用の鍵付きの個室更衣室が原則として1部屋あるだけ。浴室やシャワールームもなく、トイレすらないジムもある。それだけ施設のスペースが狭くて済み、家賃を安く抑えられるほか、浴室やシャワーの水道代やガス代もかからない。
スタッフがいない無人ジムなので、人件費がかからないのも大きい。チョコザップを利用する際に必要なスマホアプリは新入会員に「スターターキット」として配布する体組成計やヘルスウォッチなどと連携してユーザーの健康管理ができると同時に、入館QRコードの表示や、運動マシン、セルフエステ・脱毛装置の使い方動画も閲覧できる。いわば専用アプリがスタッフ代わりだ。
低料金で気になるのは採算性だが、チョコザップの新規出店や広告宣伝費、スターターキットの配布といった会員基盤拡大へ向けた出費がかさみ、現時点では赤字だ。その結果、ライザップの2024年3月期第1四半期決算は28億円の営業赤字となった。同社は8月に12億5000万円の長期借入と55億円の資本性劣後ローンによる資金調達を実施している。
同社はチョコザップを低料金で大量の顧客を獲得するエントリービジネスと捉えており、登録料40万円のプライム会員制度を新設したハイエンドビジネスの「RIZAPボディメイク事業」と相互補完することで経営基盤の安定を目指す。75万人もの膨大な顧客情報も、貴重な経営リソース(資源)となる。現在の赤字は、そのための先行投資というわけだ。
徹底したコストダウンで低料金を実現したチョコザップ。だが、万人向けのフィットネスクラブではない。大汗をかく長時間トレーニングをした後にシャワーがないのは、自宅の近所でなければつらいだろう。事故防止のスタッフがいないダンベルやバーベルなどのフリーウエイトは置かれてないため、本格的な筋肉トレーニングには向いていない。
チョコザップは、あくまで運動不足解消や体重管理といった軽運動向きの施設だ。とはいえ軽運動をやりたいユーザーにとっては、既存のフィットネスクラブが「オーバースペック」なのは確か。さらには大手サロンでも導入されているというエステマシンやセルフ脱毛マシンなどの女性向け機器も充実している。利用する目的に応じて、上手に使い分けたい。
文:M&A Online