ユニクロに勝訴し今月上場する「アスタリスク」ってどんな会社?

alt

「まるで『下町ロケット』!」と話題になったアスタリスク<6522>が2021年9月30日に東証マザーズへ上場する。同社は衣料専門店チェーンのユニクロやGUを展開するファーストリテイリング<9983>と特許係争中だ。

ユニクロの新レジで特許係争に

問題になったのはユニクロに設置したセルフレジ。レジの窪みになった部分に商品を置くだけで、商品に付けたRFID(電波を用いてICタグの情報を非接触で読み書きする自動認識技術)タグを自動で読み取って精算できる。

アスタリスクは、このセルフレジシステムが2019年1月に登録した自社特許を侵害したとファーストリテイリングを相手取り、同9月に特許権侵害行為差し止めの仮処分を東京地裁に申し立てたのだ。

先に「ケンカを売った」のはファーストリテイリングだった。実は両社の間に取引があり、アスタリスクは下請け。ユニクロに導入するセルフレジのコンペにも参加したが、アスタリスクの提案は不採用となった。そこでアスタリスクはファーストリテイリングが採用した他社製品は自社特許に触れるとして、自社製品の採用かライセンス契約を求める。

これに対してファーストリテイリングは「無償ならライセンス契約を結ぶ」と回答し、同5月には同特許が「簡単に発明できる技術」なので無効であると知的財産高等裁判所に審判を請求した。

2021年5月の判決で知的財産高裁はファーストリテイリングの主張を一部認めたものの、同特許を「簡単に発明できない技術」と判断し、同社側の敗訴を言い渡した。これを不服として、ファーストリテイリングは最高裁に上告している。

下請けのアスタリスクが取引先の大手企業から特許裁判を起こされたが「返り討ち」にしたことから、池井戸潤氏の小説「下町ロケット」に登場する架空の「佃製作所」と状況が似ている(ただし「下町ロケット」で特許裁判を仕掛けたのはライバル会社)。

アスタリスクは本業に集中するため、2021年2月に係争中のセルフレジの特許権をパテント管理会社のNIPに譲渡した。ただし、NIPから同特許の実施許諾を受けており、製品やサービスの提供は継続する。

「ITを通じて、三方笑顔」が経営理念

アスタリスクは東レのシステム開発部門に在籍していた鈴木規之社長が、高校時代のラグビー部の仲間と3人で2006年に設立した。

「iPhone」などのモバイル機器に装着して使用するバーコードリーダー・RFIDリーダー「AsReader」や画像認識技術を活用した管理システムの開発・販売を手がける。現在、中国・大連や米国、オランダに100%子会社3社を置く。

「iPhone」や「iPod touch」に装着して利用できるケース型RFIDリーダー/ライター(同社ホームページより)

取引先にはトヨタ自動車や東レ、伊藤忠商事、日本アイ・ビー・エム、エイチ・ツー・オー リテイリングなど大手が多い。

経営理念は「ITを通じて、三方笑顔(お客様の笑顔/社員の笑顔/世間の笑顔)を創造し、人類・社会の進歩発展に貢献します」。同社では業務用アプリを通じて業務が楽で便利になり、社内での意思疎通もしやすくなり、笑顔になることを「顧客価値」と位置づけているという。

近江商人の「三方よし」がベースのようだが、それだけにファーストリテイリングの「納入業者なのだから無償でライセンスを供与するのは当然」という高圧的な態度に我慢できなかったのだろう。

8月16日には画像認識やRFID、センサーなど「モノ認識」に関する研究開発拠点として、地上9階、延床面積約1300平方メートルの「AsTech Osaka Building」(大阪市淀川区)を建設すると発表した。

2021年7月末時点の従業員は83人。2020年8月期の売上高13億9815万円、経常利益1億151万円、当期利益6897万円。8月25日時点の発行済み株式数は128万株で、1株当たり当期利益は53円88銭、1株当たり純資産は231円81銭だ。

文:M&A Online編集部