東京都の小池百合子知事が2020年12月8日、都議会で2030年までにガソリン車販売を廃止し、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などに切り替える方針を明らかにした。政府も2030年代半ばの販売廃止を打ち出しており、5年ほど前倒しする格好だ。が、「言うは易く行うは難し」。ガソリン車販売全廃のために、東京都は何をするべきなのか。
東京都では現在のところ、条例化による罰則を設けないとしている。ただ、「要請」だけで自動車メーカーがHVやEVへのシフトを国の要請より5年も早めることはないだろう。そうなれば都が「ガソリン車販売全廃」を実現するための選択肢は三つだ。
最も容易なのは他の道府県に同様の「要請」を呼びかけることだ。全国の自治体にとって環境問題は大きな課題であり、住民にアピールする政策でもある。全国の都道府県が「脱ガソリン車」を要請すれば、国が要請するのと近い効果が期待できる。ただ、愛知県や静岡県、神奈川県、広島県といった自動車メーカーが本社を置く県が二の足を踏むかもしれない。
次にユーザーにHVやEVの導入を促す新車購入補助金だ。すでに都ではEVやプラグインハイブリッド車(PHV)を対象に、個人の場合で30万円の補助金を用意している。ガソリン車販売を全廃するには補助金の増額もさることながら、対象枠を通常のHVに広げるなどの対応も必要だろう。
東京都の2019年の新車販売台数は登録車(バス・トラック含む)が25万7266台、軽自動車が4万2561台の合計29万9827台だ。現在と同じ30万円の補助金を出すとしたら年間900億円の予算が必要になる。
「そんな財源はない」となれば、罰則規定を設けた条例を制定するしかない。東京都は2000年に「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)」を制定し、粒子状物質排出基準を超えるディーゼル車について新車登録7年経過後の走行を禁止した前例がある。
ただ、HVやEVの車両価格がガソリン車より割高な状況が続いていれば、都民の負担増となる。環境確保条例で対象となったのは商用車だったため、都民の大半が支持した。だが、都民の「財布」に直接響くガソリン車廃止条例となると議論を呼ぶことになるだろう。
一方、規制を「受ける」側の自動車メーカーだが、こちらの反対はおそらくない。東京都の環境確保条例はバブル崩壊後に低迷していた商用車市場で「買い替え需要」を呼び起こし、疲弊していた商用車メーカーを救った。メーカーにとって条例による規制はHVやEVの量産効果をもたらし、コスト削減につながると期待するだろう。
HVやEVの普及促進で忘れてはいけないのは、それで生業を奪われる者たちのことだ。その代表格といえるのがガソリンスタンド。東京都内のガソリンスタンド軒数は1999年3月末の2513軒から2020年3月末には999軒と6割も減り、1000軒の大台を割り込んだ。これはHVの普及やガソリン車の燃費向上でガソリン消費が落ち込んだため。
「ガソリンスタンドが消える」というと地方の過疎地のことと考えがちだが、東京は土地の賃借料や人件費が高いためガソリン販売が低迷すると経営が厳しくなる。ガソリンスタンドへの財務支援など、経営を支える政策も必要になる。
とりわけHVを残すという中途半端な政策が、事態をややこしくする。EVへの全面移行ならば、ガソリンスタンドを急速充電スタンドに転換すれば良い。しかし、ガソリンを燃料とするHVを残すとなると、ガソリンスタンドは必須だ。
一方、HV販売が増えればますますガソリン消費が減少し、ガソリンスタンド数の減少に歯止めがかからない。そうなるとHVユーザーはただでさえ渋滞が多い中、遠方のガソリンスタンドまで給油に出かけなくてはいけなくなる。
「市場原理に任せる」という手もあるが、住民から「ガソリンスタンドをバランス良く配置してほしい」と強く要望されれば、都としても動かざるをえないだろう。採算がとれない場所でガソリンスタンドを維持するには、やはり損失補填(ほてん)のための補助金などの財務支援策が必須となる。
いずれにせよ、都としても「言いっぱなし」のパフォーマンスでなく、ガソリン車販売廃止に向けた手厚い支援が必要になる。都にそれだけの「覚悟」があるのかどうかが問われることになりそうだ。
文:M&A Online編集部