外資系金融機関を知るシリーズの第15回は米国金融大手、ウェルズ・ファーゴです。西海岸サンフランシスコに本拠を置き、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループと並ぶ米4大銀行の一つに数えられます。大手ながら元々、地銀の位置づけでしたが、金融危機の最中の2008年末、米東部を地盤とする大手行のワコビアを吸収合併し、一気にメガバンクの仲間入りを果たしました。これを機に日本での活動も本格的に始まりました。
ウェルズ・ファーゴの起源は19世紀半ば、カリフォルニアのゴールドラッシュ時にさかのぼります。創設したのはヘンリー・ウェルズとウィリアム・ファーゴの2人。西部開拓時代の真っただ中、カリフォルニアで駅馬車による貨物と郵便運送、銀行業に乗り出しました。ウェルズ・ファーゴはたちまちカリフォルニアで金融の牙城を築き、西海岸を代表する銀行として成長し、他行との合併を幾度となく経て巨大化していきます。
実はウェルズとファーゴはアメリカン・エキスプレスを創設者としても知られています。ウェルズ・ファーゴを旗揚げする以前、ニューヨーク州バッファローで運送事業を開業し、この会社こそがアメリカン・エキスプレスだったのです。クレジットカードとトラベラーズチェックで日本でもおなじみですが、その始まりは駅馬車によるエキスプレス(急行便)でした。
米大手銀行は株式・債券発行の引き受けやM&Aアドバイザーなど投資銀行業務が多くの割合を占めるのに対し、ウェルズ・ファーゴは融資に代表される伝統的な商業銀行業務を主軸に据え、とくにリテールの中小企業融資や住宅ローンで全米屈指を誇ってきました。ただ、こうした業務内容から、米金融界では長らく地銀として色分けされていました。堅実経営をモットーとし、2008年のリーマンショック後の金融危機の時期には「最も安定した銀行」と評価されました。
金融危機の際、苦境に陥った同業大手のワコビアをめぐってシティーバンクと争奪戦を繰り広げた末に、ウェルズ・ファーゴが151億ドル(約1兆6000億円)で買収。米国の4大銀行の一つに数えられるようになったのでした。売上規模は倍増し、業務範囲もいよいよ証券・投資銀行事業へ拡大していきました。
ただ、ここ数年は米本国での不祥事が何かとニュースを騒がせています。2016年、顧客に無断で預金やクレジットカードの口座を開くなどの大規模な不正行為が横行していたことが明らかとなり、2017年には経営トップの辞任にも発展しました。これによって、長らくキープしていた銀行としての時価総額世界首位の座を譲ることになりました。
さて、日本での活動はどうでしょうか。
日本では旧ワコビアの拠点を引き継ぐ形で、ウェルズ・ファーゴ証券(日本法人)とウェルズ・ファーゴ銀行東京支店があります。いずれも東京駅前の丸の内トラストタワー本館24階にオフィスを構えています。
ウェルズ・ファーゴ証券は2009年に現在の社名になりました。元々、2007年にワコビア証券として設立され、債券・株式発行の引き受け、販売、トレーディング、M&A、ローン・シンジケート業務などを展開していました。
ウェルズ・ファーゴ銀行東京支店としては2010年、外国銀行支店の営業免許を得て、外国送金に伴うコルレス・バンキングや貿易金融サービスを主力業務に営業を開始しました。
同じ米国勢でもJPモルガン、シティグループ、バンク・オブ・アメリカは戦前から、あるいは戦後いち早く日本で営業をスタートし、実績を積んでいます。ウェルズ・ファーゴは日本で後発だけに認知度や知名度がまだまだですが、その分、伸びしろがあるといえます。
実際、調査会社トムソン・ロイターがまとめている日本企業のM&Aに関するアドバイザー業務の年間ランキング(上位25社。公表ベース)をみると、2016年に20位(金額3465億円、案件4件)に初めてランクインしました。日本企業による海外M&Aが活発化する中、この方面でも活躍が大いに期待されます。
文:M&A Online編集部