5分で簡単にわかるステークホルダーの意味とビジネス、M&Aでの使い方

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ステークホルダー(Stakeholder)とは「利害関係者」のこと。企業や行政などの利害と行動に、直接あるいは間接的な利害関係がある個人や団体などを指す概念だ。最初にこの用語が用いられたのは1963年の米研究機関SRIインターナショナルの内部メモで、「その集団からの支援がなければ、当該組織が存続し得ないような集団」との意味だったという。1980年代に米経営学者のエドワード・フリーマンがこの概念を広めた。

図と表で理解するステークホルダーの種類

ステークホルダーには8種類が存在する。関係が深い順に株主・投資家、経営者、従業員、顧客、取引先・業界団体、提携企業、金融機関、行政機関・地域社会だ。企業から見て、最も関係が深いのは株主。なぜなら会社を所有するのは株主だからだ。業績により配当額や上場企業の場合は株価も上下する。万一、経営破綻すれば株主は全ての権利を失う大打撃を受けてしまう。

そうした企業の栄枯盛衰を左右するのが経営者だ。取締役や執行役として事業の執行に当たっている。「企業のトップ」と見なされることが多いが、企業の所有者である株主から企業の運営と事業の執行を委託されている「雇われ経営者」である。これはオーナー社長でも同じ。形式上は自分を含む株主に雇われている存在だ。過半数の株を押さえていない限り、筆頭株主のオーナー社長であっても株主総会で取締役人事議案の反対票が上回れば解任される。

従業員は企業の事業運営に当たる人材だ。一般には「社員」と呼ばれるが、法律上の「社員」は株主を指す。正式には「従業員」の呼称が正しい。従業員の能力やロイヤルティー(忠誠心)、団結力は企業活動に大きく影響するので、業績や成長性を左右する最も重要なステークホルダーと言える。

顧客は商品やサービスを購入し、企業に利潤をもたらす重要な存在だ。顧客に見放されると、企業は存続できない。そのため企業は顧客を最も重要なステークホルダーと位置づけており、経営戦略の大半は顧客対策である。

取引先・業界団体は企業活動をサポートする存在だ。取引先から商品(素材・部品を含む)やサービスの提供を受けることで、企業が生産や販売で事業を展開できる。自社の商品やサービスを購入してくれる企業も「取引先」と呼ばれるが、ステークホルダーの視点からはそうした企業は「顧客」であり、一般に「サプライヤー」や「下請け」と呼ばれる企業が「取引先」に当たる。

かつて企業は取引先に対しては「顧客」として、圧倒的に優位な立場にあった。最近ではコスト削減や後継者不足から下請け企業やサプライヤーの集約が進み、価格など取引条件の交渉力や力関係に変化が見られる。コロナ禍でサプライチェーンの供給能力が低下した影響により、企業が生産停止に追い込まれるケースが多発。事業運営の危機管理上も、取引先への配慮や情報共有が強く意識されるようになった。

業界団体は行政に対する窓口機能や、同業企業で共通する問題を解決する手段として重要な存在だ。環境問題や助成制度のように1社単独で解決できない問題も増えており、企業が長期安定した経営を続けるために重要なステークホルダーと言える。

提携企業は取引先と違い、ほぼ対等な立場で共同事業に当たる企業を指す。合弁会社を設立したり、技術や製品、工場などを相互活用するなど、企業活動のパートナーと言える存在だ。提携で関係が深まり、後にM&Aの対象企業となる可能性も高い。

金融機関は企業活動に資金を提供する。かつては銀行が中心で、資金繰り次第では融資を打ち切られると倒産してしまうこともあり、企業にとっては極めて重要なステークホルダーだった。しかし、最近では株式上場や増資、社債で資金調達する企業が増え、証券会社やプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)の存在感が高まっている。

行政機関・地域社会は近年、最も注目されているステークホルダーだ。企業活動にも社会性が求められ、行政や地域社会の意向を無視した経営では立ち行かない。利益だけを追い求めて行政や地域社会と対立した場合、マスコミ報道やSNSなどで激しい批判を受け、株主や従業員、顧客からの評価が落ちてしまう。現在では「地域社会との共存」を経営方針として掲げている企業がほとんどだ。

「ステークホルダー」と「シェアホルダー(ストックホルダー)」の違い

ステークホルダー型の経営

「ステークホルダー資本主義」とも。企業が株主だけでなく、従業員や、取引先、顧客、地域社会といった、あらゆるステークホルダーの利益に配慮すべきという考え方だ。具体的には従業員への適正な賃金の支払いや労働者間の格差の是正、環境破壊の防止、企業が事業所を置く地域コミュニティーへの投資、適切な納税などを指す。

2019年8月に米大手企業で構成される非営利団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、短期的な利益志向や経済的な格差拡大を引き起こした従来型資本主義の問題点を指摘し、あらゆるステークホルダーに配慮すべきだとの声明を発表。これを受けて2020年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)のメインテーマとなり、広く知れ渡った。

シェアホルダー(ストックホルダー)型の経営

シェアホルダー(ストックホルダー)とは株主のこと。株式により企業を一部、または全部所有する。普通株を持つ普通株主は配当金を受けられるほか、取締役会メンバーの選任や重要な経営方針の議決に関与できる。企業が株主の意向を最優先に企業運営を進めるのが「シェアホルダー(ストックホルダー)型の経営」だ。

大企業の場合、株主は株価の上昇と配当金の増額を期待して、企業に業績の向上を求めることが多い。そのため従業員や取引先、地域社会に不利益になるような企業行動を取ることもあり、社会に歪みを与えているとの批判もある。こうした批判を受けて「ステークホルダー型の経営」が提唱されるようになった。

企業の理想的なステークホルダーへの向き合い方

企業はシェアホルダーだけでなく、すべてのステークホルダーの利益に配慮すべきだ。企業の成長機会を増やすために機関投資家を含む株主や顧客が利益を得られるようにするのはもちろんのこと、従業員を満足させてモチベーションを維持するほか、取引先とも共存共栄し、地域コミュニティーに貢献することも忘れてはならない。

直接的ステークホルダー

企業活動で直接的な影響を与えたり、逆にその活動によって直接的な影響を受けたりする対象のこと。具体的には株主や従業員、顧客、取引先などを指す。企業が日常的に意識するステークホルダーは、この「直接的ステークホルダー」だ。

直接的ステークホルダーとの関係は企業業績を大きく左右するので、ほとんどの企業が彼らからの信頼を得るための活動に取り組んでいる。株主に向けてはIR活動、従業員に向けては労使懇談会の開催や社内アンケート、顧客に対してはショールームや展示会を通じての商品・サービス情報の提供、お客様相談窓口の設置などだ。

日本では長期安定取引を志向する傾向が強く、直接的ステークホルダーとの関係については企業も重視していた。ただ、バブル崩壊後の経営状況の悪化から従業員や取引先などに負担を押し付ける企業も増えており、最近では直接的ステークホルダーの一部を軽視する動きも出ている。

間接的ステークホルダー

間接的ステークホルダーとは、企業に直接影響を与えたり企業の活動によって直接影響を受けたりすることはないものの、間接的な影響を与えたり受けたりする対象のこと。具体的には従業員の家族や行政、地域コミュニティーや地域住民などを指す。

最近になって注目されているのは、この間接的ステークホルダーへの対応だ。環境モニタリングや事業に関連するセミナー・懇談会の実施、工場見学ツアー、NGO(非政府組織)との協同事業など、地域コミュニティーとの障壁を低くし、自社事業を正しく理解してもらうことが必要だ。

地域コミュニティーに開かれた活動を展開した結果、地元住民からの工場などへの苦情が激減したり、就職希望者が増えたり、地元での商品やサービスのセールスが伸びたなどの効果が出た企業も少なくない。廃棄物処理業者がリサイクルで循環型社会に貢献していることを工場見学ツアーや地元小中学校の講演会で紹介したところ、立ち退き運動が収まった事例もある。

ステークホルダーが注目されている背景

ステークホルダーが注目されている背景は主に二つある。一つは資金調達だ。シェアホルダー(ストックホルダー)型の経営時代は売上高と利益が増えてさえいれば、新株発行や金融機関からの融資を受けることができた。しかし、近年は「貸し手の責任」が重視されるようになり、環境破壊や途上国での人権を蹂躙するような取引をしている企業への投資を控える動きが出ている。

例えばESG投資。これは環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のこと。年金基金など巨額の資産を超長期で運用する機関投資家を中心に、気候変動などを考慮した長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会を評価する指標として企業経営のサステナビリティー(持続性)を評価する動きが出てきた。

2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標「持続可能な開発目標(SDGs)」にも、「全てのステークホルダーが役割を」との文言が含まれている。

ステークホルダーに配慮する企業

ステークホルダーに配慮する企業は「事業を通じて社会貢献をする責任」を果たす必要がある。企業のCSR(企業の社会的責任)活動に留まらず、自社の利益拡大と社会課題の解決の両方を実現することで社会全体の利益を増大するのだ。実際にステークホルダー経営を掲げている企業の取り組みを、各社ホームページから紹介しよう。

具体例① 日清製粉グループ本社

日清製粉グループは株主に対して高い収益力と着実な成長力を保持し効率的な資産活用を図るとともに、安定的かつ適正な配当を実施する。同時に適時・適切・継続的に情報開示を図ることで、正しい理解・評価・信頼を得られるように努め、株価の向上を目指す。

従業員に対しては人間性尊重を基本とした相互信頼のもと、社員一人ひとりが仕事を通じて喜びと生き甲斐を感じながら、能力と個性を最大限に活かせ、安全で健康的に働ける職場環境づくりに取り組む。

顧客に対しては生活者・事業者のニーズやウオンツを的確に把握し、信頼をベースに安心・安全かつ高品質の製品やサービスを提供することにより、常にお客様に最大の満足を得て頂くように努める。

取引先に対しては公正かつ自由な競争原則のもと相互信頼をベースに相手の立場を尊重し、その成果を共に分かち合うことにより共存・共栄を図る。

社会に対しては人権の尊重を基本とし、製品の安全性追求や環境保全に努めるとともに、社会規範の遵守を徹底し信頼性のある企業としての地位を確立する。さらに積極的に社会貢献活動を進め、社会との調和を図る。また、こうした使命と役割を世界各国の国情にあった形で果たし、国際社会との調和にも注力する。

具体例② 昭和電工(レゾナック・ホールディングスに社名変更予定)

昭和電工は株主に対して事業説明会や工場見学会、スモール・個別ミーティング、ESGをテーマにした対話などを通じて株主や投資家との積極的なコミュニケーションを図り、経営の透明性の向上に努めている。

従業員に対しては従業員意識調査の実施や労使経営会議、労使コミカッションといった労使協議、家族見学会などを実施。価値創造の主役である従業員が、健康でいきいきと仕事に取り組み、働きがいと誇りの持てる企業文化の醸成を目指している。

取引先(サプライヤー)にはサプライヤーのCSR評価と改善支援(CSR自己診断・CSR訪問・フォローアップ)を通じて、持続可能な社会づくりに向けて協働。サプライチェーン全体での環境・社会課題の解決と、お互いの企業価値向上に取り組む。

具体例③ セブン&アイ・ホールディングス

セブン&アイHDは株主・投資家の信頼に応えるためにも透明性の高い経営とコミュニケーションを重視し、説明責任を果たしている。そのために投資家とのミーティングの開催や投資家向け情報サイト・機関紙による情報発信に取り組む。

従業員に対しては働き甲斐をもって生き生きと活躍できる職場を目指し、公平・公正で人権に配慮した職場環境づくりに取り組む。そのために従業員意識調査や自己評価(セルフチェック)制度などを実施している。

取引先に対しては、公正な取引に関連する法令や社内ルールの遵守、安全・安心、人権・環境への配慮を保つために信頼関係を構築し、共に社会的責任を果たしていく。

社会に対しては、地域の生活にあった商品・サービスを提供するとともに、地産地消の推進や地域との共生を図るなど、地域の発展へ貢献する活動を推進している。

具体例④ ミネベアミツミ

ミネベアミツミは株主に対してはIR活動の充実により、株主とのコミュニケーションの場を広げ、株主・投資家の皆様に理解を深める努力をしている。

従業員には全ての従業員が健康で、安全に働くことができ、1人1人が能力を十分に発揮できるよう、職場環境の整備・向上に努めている。

取引先とは「資材調達基本方針」に基づいた健全なパートナーシップを築いている。

社会に対してはグローバルに事業を展開する企業として、地域社会との十分なコミュニケーションにより、健全なパートナーシップを構築している。

環境問題については「ミネベアミツミグループ環境方針」の下、環境マネジメントシステムを構築し、グループ全社で地球環境保護と人類の持続的な発展に貢献する取り組みを続けている。

ステークホルダーの声を事業活動に活かす方法

ステークホルダー型の経営をするには、株主や投資家以外のあらゆるステークホルダーの意見を聞き、経営の参考にしなくてはいけない。そのためには社内にステークホルダーからの意見を受け入れる「仕組み」を作る必要がある。

ステークホルダーエンゲージメント

ステークホルダーエンゲージメントとは、企業がステークホルダーのことを十分に理解し、ステークホルダーの関心事を事業活動と意思決定プロセスに組み込む組織的な試みだ。ステークホルダーエンゲージメントを実施することで、企業は事業活動に影響するような情報収集やトレンド情報の収集といった戦術的な情報を得られる。

それだけではない。組織の透明性向上や長期的成長に不可欠なステークホルダーからの信頼獲得、新たな課題・機会に対応するために必要なイノベーションや組織変革のヒントといった戦略的な情報を得ることも期待できる。

自社の評判を維持・向上を目的とした広報活動と勘違いをされがちだが、ステークホルダーエンゲージメントを事業のリスクを軽減する「経営資源」と位置づけることが重要だ。

コーポレートガバナンス

コーポレートガバナンスとは企業統治のこと。会社は「経営者のものではなく、資本を投下している株主のもの」という前提で、企業経営を監視する仕組みを指す。

その行動指針となるのが「コーポレートガバナンス・コード(CGコード)」だ。日本では2015年3月に金融庁と東京証券取引所が共同で原案を策定し、同6月から全上場企業に適用された。2021年6月に「改訂コーポレートガバナンス・コード(改訂CGコード)が施行されている。取締役会の機能発揮や企業の中核人材における多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取り組みなどが、新たに盛り込まれた。

CGコードには五つ基本原則がある。それは「株主の権利・平等性の確保」「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」「株主との対話」だ。これらに付随して31の「原則」や、それらを補足する47の「補充原則」が定められている。

このほか持続可能性(サステイナビリティー)を重視した「サステイナブル・ガバナンス(SG)」と呼ばれる指針もある。

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ステークホルダーマネジメント

ステークホルダーマネジメントとは、文字通り企業のステークホルダー(利害関係者)を管理すること。その目的は一言でいうと「ステークホルダーとの良好な関係をつくる」。多様化する社会では利害関係が複雑化しており、企業活動で想定外の反対やトラブルが生じる可能性が増している。

そうした問題を未然に回避するために、ステークホルダーの管理をしておく必要があるのだ。具体的には、特定のステークホルダーが企業活動に対してどのような考えを持っているのかを調べる。その上で綿密にコミュニケーションを取るべきステークホルダーは誰か、社業に対して強い影響を及ぼすステークホルダーは誰か、を正確に把握しておく。

企業はこうした調査結果を参考にして、ステークホルダーエンゲージメントを機能させるためのコミュニケーションを実施することになる。

SDGsの観点で構築するステークホルダーとの関係

SDGsとステークホルダー型の経営とは親和性が高い。SDGsは2030年をゴールに持続可能で、よりよい世界を目指す国際目標。17のゴールと169のターゲットで構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを目指す。

具体的なゴールには「貧困をなくそう」「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「働きがいも経済成長も」「産業と技術革新の基盤をつくろう」「産業と技術革新の基盤をつくろう」といった企業活動と密接な関係があるものも多い。

つまりSDGsの達成に向けた会社運営を進めて行けば、ステークホルダー型の経営に自ずと接近するわけだ。企業のステークホルダーは、広く全人類と言える。SDGsを意識すれば、全ステークホルダーとの良好な関係づくりにつながるのも当然だ。

実際にSDGs経営を掲げている企業の取り組みを、各社ホームページから紹介しよう。

具体例① 住友生命保険

住友生命は「スミセイ中期経営計画2022」でSDGsを推進している。人生100年時代を見据えたサービスや情報提供の推進、顧客に提供する商品・サービスや情報提供などをさらに進化させ、超高齢社会の社会的課題解決に取り組む。

働き方の変革や 柔軟で多様な人材の採用育成、協業などによるビジネスパートナーとの共生、持続的な社会実現に向けたESG投融資推進、 オープンイノベーションによる新たな価値創造などにも力を入れる。地球環境の保護や社会貢献活動の推進、地方自治体との連携、コーポレートガバナンスの強化、コンプライアンスへの取り組みなども進める。

同社は国際的な各種ガイドラインなど社外からの助言を参考に、CSRに関連すると考えられる運営項目の洗い出しを実施。その上で項目の集約と修正をして調査対象項目を整理した。こうして抽出した項目について、社内外からの意見を反映し、「ステークホルダー視点」「当社事業視点」の両軸から優先順位づけした。

その両軸からの優先順位をもとに、ステークホルダーと同社双方から見て特に重要度の高い16項目を選定。こうして導かれた16項目が五つのCSR重要項目に当てはまることを確認し、その妥当性を検証している。

具体例② NTTデータ

NTTデータは長期的な視点を持ったSDGs経営を推進する中期経営計画を策定した。同計画では「Realizing a Sustainable Future」を掲げ、「Client‘s Growth(顧客の成長)」「Regenerating Ecosystems(生態系の再生)」「Inclusive Society(包摂的な社会)」の三つの軸で、自社の企業活動と顧客や社会に対する事業活動の両面から社会課題の解決と地球環境への貢献に取り組み、顧客と共にさらなる成長を目指す。

これらの活動を推進するため、「Carbon Neutral(脱炭素社会)」「Circular Economy(循環型経済)」「Nature Conservation(自然保護)」「Smart X Co-innovation(Smart X 共同イノベーション)」「Trusted Value chain(信頼できるバリューチェーン)」「Future of Work(仕事の未来)」「Human Rights & DEI(人権と多様性、平等性、包摂)」「Digital Accessibility(デジタルアクセシビリティー)」「Community Engagement(コミュニティ・エンゲージメント)」の九つのマテリアリティ(重要課題)を設定した。

サステナブルな社会の実現に向けて、事業活動と企業活動により、社会課題の解決・地球環境への貢献に取り組むことで、顧客と共に成長を目指す。

M&Aを行う際のステークホルダーへの注意点

M&A は数多くのステークホルダーが絡み合う企業の支配権を巡る取引だ。M&Aを実施する際にも、ステークホルダーへの配慮を忘れてはいけない。M&Aには構造的な利益相反の問題と情報の非対称性の問題が生じる可能性もある。買う側、買われる側、利害が異なる双方のステークホルダーに対応する必要があるため、企業側も十分な準備が必要だ。

敵対的買収の場合

敵対的買収は、TOB(株式公開買い付け)などの買収行為のうち、買われる側の経営陣が反対の意見表明をする案件を指す。だが、経営陣が反対した場合でも、株主を含むステークホルダーにとっても望まない買収とは限らない。ステークホルダーの利益を生む買収も存在するのだ。そこは十分に配慮しておく必要がある。

敵対的買収に対しては、企業が買収防衛策をとるケースがほとんど。しかし、こうした買収防衛策は無制限に認められるわけではない。買収防衛策の是非については、研究者の間でも見解が分かれている。

経営陣が株主よりも企業価値につき十分な認識持ち、買収提案に対し適切な判断を下せることを根拠に買収防衛策は認められるべきだとの意見がある。その一方でステークホルダーの利益という観点からは、経営陣が適切に判断することができるかは疑問であり、買収防衛策の是非についてはステークホルダーとの慎重な議論を要するとの意見も根強い。

TOBやMBOの場合

経営陣が賛成の意見表明をしたTOBやMBO(経営陣による買収)でも、敵対的買収とは真逆の意味でステークホルダーに考慮する必要がある。経営陣にとっては望ましいTOBやMBOであっても、ステークホルダーにとっては望ましくない案件もありうるからだ。

M&Aも「契約自由の原則」に基づき、売り手企業と買い手企業が合意さえすれば何の問題もないとの意見もある。しかし、協議交渉の直接の当事者となれないステークホルダーの利益はどう保護するのか、十分な交渉力を発揮できないステークホルダーがいる場合にはどうするのかを検討すべきだろう。

とりわけMBOでは対象会社の経営陣が「買い手」の地位を兼ねるため買収額を低く抑える傾向にある。少数株主の保護の観点から、買収額やMBOによる企業価値の向上についての説明責任を果たす必要がある。

少数株主がいる場合

少数株主もまた重要なステークホルダーだ。総株主の議決権の10%以上の議決権または発行済株式の10%以上の議決権または発行済株式の10%以上の株式を保有する少数株主は会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、回復することができない損害が生じるおそれがある時などに株式会社の解散を請求できる。

総株主の議決権の3%以上の議決権または発行済株式の3%以上の議決権または発行済株式の3%以上の株式を少数株主は会計帳簿・資料の閲覧を請求できるのに加えて、6カ月以上にわたって継続保有している株主は役員の解任や株主総会・種類株主総会の招集請求が可能になる。

M&Aを実施する前に、少数株主とのコミュニケーションを円滑にしておくこと、実施に当たっては少数株主の利益にも十分な配慮が必要だ。

「ステークホルダー」という言葉を使う際の注意点

ステークホルダーの概念は広いため、使い方を誤ったり文脈を読み間違えたりすると、双方の認識に齟齬(そご)が生じるおそれがあるため注意が必要だ。

加えて企業活動を全てのステークホルダーにフォーカスするのは極めて難しい。言い換えれば企業が同時に全てのステークホルダーを満足させることはできないのだ。例えば取引先が喜ぶ調達価格の引き上げは、商品価格に転嫁すれば顧客に嫌われ、社内でコスト増を吸収すれば給与が伸び悩んで従業員から反発を受ける、内部留保や配当を削れば株主から総スカンをくらいかねない。

企業をステークホルダーの属性や立ち位置を分析し、事業やプロジェクトごとに良好な関係を築くためのアプローチ方法を検討する必要がある。具体的には直接的か間接的か、プロジェクトへの影響力はどれくらいか、プロジェクトにどれくらい関心があるかを検討し、適切かつ効果的ななステークホルダーエンゲージメントを実施しなくてはいけない。

類義語と言い換え

ステークホルダーの類義語としては、株主の中でも投資家を示す「ストックホルダー」と、強い議決権を持つ大株主を示す「シェアホルダー」がある。ステークホルダーの言い換えとしては、「利害関係者」が一般的だ。

シェアホルダー(ストックホルダー)型からステークホルダー型への移行が進む

会社の所有者はシェアホルダーやストックホルダーなどの株主だ。これは今も昔も変わらない。企業経営に当たる取締役の選任はじめ、重要な意思決定は1票でも多く株式を保有する株主または株主グループの意向で決まる。株主から経営陣への要求は、主に事業を成長させて業績や株価を引き上げることだ。

しかし、世界経済のグローバル化に伴うフェアトレードや環境問題への対応、地域社会との共存など短期的には企業収益とは結びつかない課題が浮かび上がってきている。こうした課題を「業績に関係ないから」と放っておくと、社会問題化して企業イメージを毀損(きそん)するリスクが高まっている。

世界中で社会問題を引き起こす企業への融資や取引を見直す動きも加速しており、取引条件の悪化やブランドイメージの没落といった、中・長期的に企業の収益性や信用を損なう懸念が高まっている。こうした状況を受けて、企業でシェアホルダー(ストックホルダー)型からステークホルダー型への移行が進む。今後もこうした流れは加速することはあっても、止まることはないだろう。

文:M&A Online編集部