焼肉店は不発か? 転換進めたワタミの外食事業上期売上が28%の減少

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ワタミ本社

ワタミ<7522>の2022年3月期第2四半期の国内外食事業売上高が前期比27.8%減の54億1,500万円となりました。9月末時点での店舗数は昨年と比較して8店舗の減少に留まっており、第2四半期の売上減は集客に苦戦する様子を物語っています。ワタミは日本政策投資銀行から120億円を調達し、居酒屋から焼肉店への転換を進めていました。2021年3月末時点での焼肉店の店舗数は23。転換は思うように進んでいません。居酒屋から焼肉へ。そのスローガンで資金を調達し、居酒屋企業の新たな道を切り開こうとしたワタミですが、行き詰まりが見え始めています。

この記事では以下の情報が得られます

・ワタミの業績
・2021年4月から9月の居酒屋と焼肉店の売上

市況よりも悪化しているワタミの飲食店

※大々的に打ち出した「焼肉の和民」(画像は2021年3月期中間決算説明会より)

2022年3月期第2四半期全体の売上高は、前年同期に300万円プラスした286億3,000万円で横ばいとなりました。営業損失は30億7,800万円(前年同期は55億1,300万円の損失)となり、赤字幅は縮小しています。売上減を食い止めたのが、宅食事業でした。この事業の売上高は前期比9.0%増の193億5,300万円、セグメント利益は同30.8%増の17億2,300万円となりました。

ワタミは2021年4月から渡邉美樹会長自らプレゼンをするTVショッピングを実施しており、認知度を上げて販売数を伸ばしています。2022年3月期第2四半期は食数の増加によって8億4,000万円を上積みしました。工場の生産性改善にも力を入れており、利益が出やすい体質へと変化しています。宅食事業の売上は国内外食の3.6倍となっており、会社全体を牽引する事業となりました。

祖業の国内外食事業が問題です。

渡邉美樹氏は2019年10月に参院議員から会長に復帰。2021年10月に会長兼社長に就任して現場で再び指揮を執るようになりました。新型コロナウイルス感染拡大で居酒屋の不振が鮮明となり、渡邉美樹氏が先頭に立って焼肉店への大転換を打ち出しました。日本政策投資銀行から120億円を調達。2021年4月から2026年3月にかけて130店舗の新規出店・業態転換をする計画でした。

日本フードサービス協会の調査によると、忘年会シーズンである2020年12月の焼肉店の売上高は前年比88.6%。このとき居酒屋は39.8%でした。物語コーポレーション<3097>の主力業態焼肉きんぐの2020年12月の売上高が前年比97.0%となった通り、焼肉店は席数の多いタイプでも集客できることが証明されていました。大箱居酒屋を多く抱えるワタミは、焼肉店への転換で集客力を取り戻そうとしたのです。焼肉店はグリルや排煙装置など、大規模な設備投資が必要になります。巨額の資金を調達した理由はそこにあります。

転換を進めたものの、集客力が戻っているようには見えません。下の表は日本フードサービス協会の調査による2021年4月から9月までの居酒屋、焼肉の月次売上高の推移です。時短営業を要請されていた居酒屋は、2021年の売上が2020年の水準を12.7%下回りました。一方、焼肉は前年を15.5%上回っています。

■居酒屋と焼肉の前年比売上高

4月 5月 6月 7月 8月 9月 上期
居酒屋 274.2% 95.9% 41.5% 62.6% 33.0% 16.8% 87.3%
焼肉 254.5% 135.5% 72.5% 86.5% 73.4% 70.4% 115.5%

日本フードサービス協会より

ワタミの国内外食事業の売上高は27.8%の減少でした。8店舗の減少を加味しても、苦戦している様子が浮かび上がってきます。

繁華街立地が不利になったか?

ワタミはかつて居酒屋和民のブランドイメージが大きく毀損しました。そのときに立ち上げたのがミライザカと鳥メロです。一部店舗の業態転換を図ると、売上が100%を超えて目覚ましい結果が出ました。成果が出た後の転換スピードは速く、2018年3月期は和民からの転換によってミライザカを60店舗、鳥メロを75店舗をオープンしています。焼肉は設備投資が重いため、早期の転換が図れないのは確かです。しかし、これだけスピード感のある会社が大号令をかけた焼肉店の出店が、未だ30に留まっていることを考えると、集客に苦しんでいると考えた方が自然です。

ワタミは駅前の繁華街を中心に出店しています。一方、焼肉きんぐは郊外のロードサイド型が主体です。例えば、名古屋市内の焼肉の和民は名古屋駅、本山駅、東岡崎駅から徒歩圏内に店を構えるビルイン型です。焼肉きんぐの名古屋市内にある4店舗はすべてロードサイド型です。

内閣府地方創生推進室ビッグデータチームは「V-RESAS」で人の移動に関するデータを提供しています。名古屋駅周辺の人通りを見ると、市区町村内の人で2019年の水準を20%、都道府県外の人で40%以下となっている月がほとんどです。駅周辺にはまだ人が戻りきっていません。繁華街立地はまだ不利な状況が続いています。

V-RESASより抜粋

また、和民ブランドはブラック企業の烙印を押された居酒屋和民のイメージを抜け切れていない可能性もあります。もともとワタミはかみむら牧場という焼肉店を立ち上げていましたが、会長の復帰後にそのノウハウを踏襲する形で焼肉の和民を出店しています。

焼肉の和民が振るわなかった場合、ワタミがとる道は3つあると考えられます。1つは別ブランドの焼肉店で出店を強化する道です。ロードサイド型など、戦略そのものの転換が必要になるかもしれません。その場合は転換ではなく躯体から構築する新規出店となるため、更なる大型の資金調達が必要です。2つ目は回転寿司などの市況が良い別業態を立ち上げることです。3つ目は居酒屋の需要が回復するのを待つことです。ただし、ワタミはすでに120億円もの資金を調達しており、何のアクションも取らないという可能性は低いでしょう。

下期の動きに注目が集まります。

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