「焼肉」のワタミに変身できるか? 脱居酒屋へ120億円調達

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ワタミが展開する「焼肉の和民」(東京・錦糸町)

外食大手のワタミが120億円の資本増強を決めた。新型コロナウイルス感染拡大による大幅赤字で悪化した財務状況を改善するとともに、脱居酒屋を進めて焼肉業態の新規出店を加速する構えだ。果たして、その成算は。

「外食」と「宅食」の売上逆転

ワタミが5月半ばに発表した2021年3月期決算は売上高33%減の608億円、営業赤字97億円(前期は9200万円の黒字)、最終赤字115億円(同29億円の赤字)。居酒屋「ミライザカ」「鳥メロ」などの外食事業(海外除く)が6割を超える記録的な減収となり、大幅赤字に追い込まれた。最終赤字は2年連続で、赤字幅も約4倍に拡大した。

売上高構成で外食事業はこれまで5割以上を占めていたが、売り上げ激減の結果、弁当や総菜、ミールキット(食材セット)を自宅などに配達する宅食事業のウエートが約6割に達し、外食事業を逆転した。

国内外食事業の4月末の拠点数は434店舗。内訳は「ミライザカ」121店、「鳥メロ」119店、「から揚げの天才」95店、「焼肉の和民」23店、「かみむら牧場」(焼肉の食べ放題)4店、「bb.qオリーブチキンカフェ」9店、その他業態63店。

脱・居酒屋で「焼肉」に命運託す

ワタミが焼肉業態への本格参入を宣言したのは昨年10月。コロナ禍で居酒屋が大苦戦する中にあって、安定的な売り上げが見込めると判断、焼肉への業態転換を打ち出したのだ。命運を託して立ち上げた新ブランドが「焼肉の和民」。一方、ワタミを象徴するブラント「和民」の居酒屋は今年3月末までに姿を消している。

そして今回決定したのが120億円の大型増資だ。100億円超の最終赤字や長期借入金の増加に伴い、3月末の自己資本比率は1年前の34%余りから7%に急低下しており、財務基盤の立て直しと成長分野への投資促進を狙う。

増資は6月末。ワタミが優先株を発行し、日本政策投資銀行が新型コロナの影響を受けた企業向けに組成した「DBJ飲食・宿泊支援ファンド投資事業有限責任組合」が増資を引き受ける。調達した資金は2026年3月までの5年間で焼肉事業を中心に合計130店舗の新規出店・業態転換の費用に充てる。

「から揚げの天才」軸にFC出店を加速

外食事業では直営店舗と同時に、テイクアウト・デリバリーを主体とする「から揚げの天才」を軸にフランチャイズ(FC)出店を加速する。2022年3月期は「から揚げの天才」200店、「bb.qオリーブチキンカフェ」80店、「かみむら牧場」37店、「焼肉の和民」32店の出店を計画。焼肉では米国や中国など海外進出も目論む。

経営のもう一方の柱、宅食事業はコロナ禍の外出自粛などで好調に推移。今年に入り、野菜、乳製品も宅配サービスの新メニューに加えるなど事業拡大にアクセルを踏み込んでいる。

2022年3月期業績は新型コロナの感染拡大が続き、先行きが見通せないため、未定としている。当面は「宅食」頼みの展開となりそうだが、焼肉事業がコロナの荒海を乗り越え、経営の屋台骨を支える日はいつ訪れるのか。

文:M&A Online編集部