「から揚げの天才」FC11店舗が契約解除、活路が見えないワタミの苦悩

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「から揚げの天才」鹿島田店(川崎市)

ワタミ<7522>の外食事業が、新常態での生き残りにかけた店舗展開に苦戦しています。アークコア<3384>は2020年9月にワタミと「から揚げの天才」のフランチャイズ契約を結んだものの、2年も経たないうちに契約を解除。運営していた11店舗を撤退し、2022年7月末で飲食事業を廃止することを決定しました。

ワタミは新型コロナウイルス感染拡大をきっかけとして、居酒屋店以外の業態を広げてきました。しかし、その成果が出ていません。

この記事では、以下の情報が得られます。

・アークコアが「から揚げの天才」を全店閉店した理由
・ワタミ外食事業の業績

380万円で出店できる低投資型の「から揚げの天才」を開発

アークコアは中古バイクの買取専門店「バイクランド」を運営するほか、「エニタイムフィットネス」や「ステップゴルフ」のフランチャイズ加盟店として店舗を出店しています。バイク事業が好調な一方、FC展開するフィットネスが新型コロナウイルス感染拡大の影響で休業を余儀なくされるなど、別事業で苦戦していました。

更なる成長と収益基盤の安定化を図るため、需要が旺盛だったから揚げのテイクアウト事業へと進出。2021年2月期に「から揚げの天才」を4店舗、2022年2月期に7店舗をオープン。合計11店舗を運営していました。

しかし、外食事業は2021年2月期に4,100万円、2022年2月期に1億4,900万円のセグメント損失を計上しています。

アークコア2022年2月期の売上高は38億4,500万円で前期比39.7%の大幅増となったものの、利益を出したのはバイク事業のみ。特に損失額が大きかったのが外食事業です。

■アークコア業績推移

決算短信より筆者作成(営業利益率の目盛りは右軸)

しかも、外食事業は計画していた収益性が見込めなかったことから、1億7,900万円の減損損失を計上しています。新型コロナウイルス感染拡大に関わる助成金収入を8,400万円得ていましたが、損失を埋めることができませんでした。

「から揚げの天才」はテリー伊藤さんをメインキャラクターにするから揚げ専門店で、2018年11月東京都大田区に1号店が誕生。ワタミによると、飲食企業最速の2年7カ月で100店舗を達成しました。素早く拡大できた背景として、コロナ禍でも出店しやすいフランチャイズモデルを構築したことを挙げています。

2020年9月にFC向け低投資型の999万円出店モデルを開発しました。更に2021年7月に380万円で出店できるタイプを世に送り出しています。中小企業や個人事業主、定年退職した人でも店舗を持てることを前面に押し出しました。

※380万円出店モデル(「「から揚げの天才」日本最速記録で100店舗達成~居酒屋経営者フランチャイズに続々参入~」より)

コロナ前のワタミは直営店にこだわっていましたが、「から揚げの天才」でフランチャイズ型のビジネスモデル構築を模索していました。

また、2021年5月に日本政策投資銀行から120億円を調達。直営店の居酒屋店を焼肉店「焼肉の和民」に転換する方針を打ち出しました。

しかし、ワタミの外食事業は全くと言っていいほど回復していません。

ワタミの事業構造が大転換、宅食が主力事業に

2022年3月期ワタミの外食事業の売上高は前期比11.6%減の151億1,900万円、68億7,200万円のセグメント損失(前年同期は96億1,500万円のセグメント損失)を計上しました。

■ワタミ外食事業業績推移

決算短信より筆者作成(事業利益の目盛りは右軸)

2022年3月末の店舗数は405店舗。2021年3月末は431店舗だったため、26店舗減少しています。売上高が11.6%減少したのは店舗数の減少も影響していますが、深刻なのは1店舗当たりの売上高も減少していること。2022年3月期に1店舗当たりが稼ぐ売上高の理論値は3,730万円。2021年3月期は3,970万円でした。5.9%減少しています。

日本フードサービス協会によると、2021年の焼肉店の売上高は2019年比で98.8%。居酒屋が78.8%でした。ワタミは直営の居酒屋店を焼肉店へと転換しましたが、その効果が表れていません。

直営、FCともに苦戦しています。

ワタミは2022年3月期にFC加盟店のアドバイザーであるSV(スーパーバイザー)を育成し、オペレーションやマーケティングのアドバイス、その他経営支援ができる人材を23名育成しました。しかし、「から揚げの天才」ブランドの集客効果が低ければFC加盟を希望する経営者は現れません。アークコアの早期撤退は、ブランド力の磨きこみが不可欠だということを示唆しているように見えます。

そして、から揚げ店は飽和状態にあります。2022年4月の全国のから揚げ専門店は推定で4,379店舗。2012年の450店舗から10倍に増加したと食品産業新聞が報じています。この店舗数にゴーストレストランは含まれておらず、その数はもっと多いものと考えられます。

から揚げという分野において、競合と差別化を図るのは簡単ではありません。

外食事業を尻目に、宅食事業は好調です。2022年3月期の宅食事業の売上高は前期比10.9%増の406億4,600万円、セグメント利益は同67.9%増の50億7,100万円でした。ワタミは2008年7月にタクショク(2015年12月にワタミ株式会社に社名変更)の全株を取得。宅食事業を本格化させていました。

当初はシルバー層をメインターゲットとして事業を拡大していましたが、2022年2月に新ブランド「PAKU MOGU(パクモグ)」を立ち上げました。20~40代の子育て世代をターゲットとし、ミールキットを配達するサービスです。宅食事業の売上高は外食事業を2.5倍以上上回っており、今やワタミの主力事業となりました。注力事業を外食から宅食へと少しずつ移しているように見えます。

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