【VTホールディングス】新車販売「冬の時代」に成長する力とは

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国内自動車販売会社(ディーラー)の苦戦が続いている。2017年(1~12月)こそ前年比5.3%増の523万4165台(軽自動車含む、以下同)と持ち直したものの、バブル経済絶頂期だった1990年の777万7493台に比べると32.7%も減少している。これからも少子高齢化によるドライバー人口の減少や、レンタカーやカーシェアリングへのシフトの影響により、新車販売台数は景気拡大による増加はあるにせよ中・長期的に減少が続くとみられている。

「冬の時代」に成長を続ける

だが、そうした国内販社「冬の時代」に成長を続けている販社が存在する。VTホールディングス<7593>がそれ。同社はなぜ、逆風下でビジネスを拡大できるのか。その背景には積極的なM&A戦略があった。

2018年9月、国産車の雄・トヨタ自動車<7203>のディーラーに衝撃を与えるニュースが飛び込んできた。トヨタが4つのチャンネル別に生産している専売車種を2025年までに廃止し、国内の約5000店舗で全車種を販売する「販売チャンネルの一本化」に乗り出すというのだ。

トヨタには「トヨタ店」「トヨペット店」「カローラ店」「ネッツ店」の4チャンネルがあり、併売車種が増えているとはいえ、専売車種も残っている。トヨタは国内新車市場の縮小に伴い、生産ロットが少ない販社チャンネルごとの専売車種をなくすことで、国内販売モデル数を60車種を30車種程度に半減させるという。これにより1車種当たりの生産台数を増やし、開発費や生産コストの削減を図る。

一方、販売会社にとっては同じ営業区域内で、それぞれのチャンネルが全く同じ車種を販売することになる。差別化ができず、同じトヨタ車の販売を巡ってチャンネル間の値引き合戦が生じるおそれがある。そう遠くない将来には地域内のチャンネル統合により、販社の再編が生じるだろう。

ホンダの販社としてスタート

しかし、トヨタは「例外」ではない。すでに日産自動車<7201>やホンダ<7267>は国内販売チャンネルを一本化している。VTホールディングスは、それを逆手に取った。

創業者の高橋一穂社長は、愛知日野自動車のトップ営業マンだったという。独立当初は中古車販売会社を営んでいたが、1983年3月にVTホールディングスの前身となる「株式会社ホンダベルノ東海」(愛知県東海市)を設立する。

同4月にホンダとの間でベルノ店取引基本契約を締結し、「東海店」をオープンした。当時、すでに自動車は「贅沢(ぜいたく)品」ではなく、公共交通機関が充実していない地方では「1家に1台」から「1人に1台」のコモディティー商品(汎用品)へと移行する時期だった。

ホンダ系販社としてスタートしたVTホールディングス(Photo By Googleストリートビュー)

販売競争も厳しく、後発の同社にとっては、まともに競争しては生き残れない状況だった。そこで同社は後発の弱点をカバーするため、1998年9月に名古屋証券取引所2部に上場すると、直ちに積極的なM&Aを展開する。そもそも上場の目的はM&Aのためだったという。つまり同社のM&Aは上場前から「成長戦略の柱」と位置づけられていたわけである。

同社は1999年3月にフォードライフ中部とホンダ自販名南の株式を取得、2000年4月にホンダベルノ岐阜の販売エリアを引き継ぎ、中京ホンダの株式も取得している。上場直後は母体であるホンダ系販社のM&Aで自動車販売事業を拡大した。

2005年12月に長野日産自動車と同社子会社3社を、 2006年7月に静岡日産自動車、三河日産自動車と同社子会社3社を、2012年4月に日産サティオ埼玉と同社子会社1社を、2014年4月には日産サティオ奈良を連結子会社化するなど、日産系販社のM&Aが進んだ。

これは日産がトヨタにさきがけて1999年4月から販売店網の再編に着手した結果、業績不振に陥った販社を買収したことによる。

M&Aにより営業利益は18年間で13倍超へ

M&Aでディーラーとしての規模を拡大することで、売上高は上場した2000年3月期の163億7700万円から2018年3月期の2021億3300万円へ12.3倍に、営業利益は13.1倍に成長した。だが、それだけではない。規模拡大と同時に、同社は自動車販売会社としての体質改善に成功している。

積極的なM&Aを進める高橋社長(同社ホームページより)

それはストック型ビジネスへの転換だ。ストック型とは、仕組みやインフラをつくることで継続的に収益が入ってくる形態を指す。一方、単発で商品を販売したり、業務を請け負う形態をフロー型ビジネスと呼ぶ。一般に自動車販売会社は「クルマを買いたい」顧客を見つけて販売するフロー型ビジネスといえる。

しかし、それでは景気の変動などに左右され、売り上げが安定しない。しかも、バブル崩壊以来、国内景気の長期低迷が続き、新車販売台数は減少傾向にあった。

そこで同社が目をつけたのは、国内乗用車保有台数-実際に稼働している自動車の台数だ。こちらは一貫して増加を続けていた。

新車販売が減少しているのに、保有台数は増えている。そこから見えてくるのは、新車を買い控えながら古い乗用車を長期間乗り続けている消費者の姿だった。同社は新車・中古車販売に加えて、顧客が長年乗り続けている乗用車の点検や車検、修理、手数料収入などのメンテナンスサービスに力を入れたのだ。

新車が1台も売れなくても黒字が出せる

こうしたメンテナンスサービスは、ほぼ定期的に受注があるため、自動車販売会社にとってはストック型ビジネスになる。現在、国内ディーラー部門の売上高の約45%は、ストック型ビジネスによるものだという。その象徴となる指標は基盤収益カバー率。これは新車販売以外の粗利益を販売管理費で割った数値で、新車販売以外の利益で販売管理費をどの程度カバーできるかを表す指標だ。

整備などのメンテナンスサービスで利益を確保(静岡日産ホームページより)

VTホールディングス傘下にある国内主要ディーラー6社平均の基盤収益カバー率は96.0%。長野日産や静岡日産のように100%を超えているディーラーも存在する。

理論的には基盤収益カバー率が100%を超えれば、新車が1台も売れなくともメンテナンスサービスなどのストック型ビジネスの収益だけで赤字にならない。

基盤収益カバー率が高ければ、新型モデルの投入サイクルや景気といった外部要因に左右されやすい新車販売の不安定化リスクを回避できる。

前述のトヨタによる供給車種半減といった事態が生じて新車販売が伸び悩んだとしても、当面はメンテナンスサービスで食いつなぎ、負のインパクトを緩和できるのだ。

しかし、これだけでは「守り」の経営となり、安定はするが成長は見込めない。国内自動車販売に替わる新たな成長ビジネスが必要になる。そこでVTホールディングスは、主力事業である自動車販売のターゲットを拡大する「横展開」と、異業種に参入して新たな市場を掘り起こす「縦展開」の両面作戦で成長を目指すことにした。

成長する海外市場へ進出

VTホールディングが「横展開」で目指すのは、日本と違って成長を続ける海外市場。そのさきがけとなったのが、2003年3月の トラスト<3347>買収だった。トラストは中古車輸出を皮切りに、海外での自動車販売へ進出。南アフリカでプジョー・フィアットそれぞれ 1 拠点ずつを展開するTRUST ABSOLUT AUTO と、現地資本や双日との業務提携によりスズキの3拠点を所有するSOJITZ ABSOLUT AUTO の2社を買収した。

その後もVTホールディングスは2012年4月に三菱商事<8058>の100%子会社である英国三菱自動車販社THE COLT CAR COMPANY LIMITED社の100%子会社で、英国のロンドン及びイングランド南西部で三菱自動車<7211>系ディーラーを11店舗運営するCOLT CAR RETAIL LIMITED(現・CCR MOTOR CO. LTD.)を買収する。

成長が見込める海外市場へ進出(Googleストリートビューより)

2014年10月に丸紅<8002>の孫会社である豪Scotts Motors Artarmon Pty Ltdを、同12月に英Griffin Mill Garages Limitedの海外自動車販社2社を完全子会社化した。2016年5月には英国で自動車ディーラー7店舗を運営し、日産やルノー、フィアット、キア、ヒュンダイ、Dacia、Abarthの7ブランドを販売するWessex Garages Holdings Limitedを完全子会社化。

スペインにおいて自動車ディーラーを展開するM Automocionグループの持株会社であるMaster Automocion, S.L.の株式を75%取得し、子会社化した。同グループはバルセロナを拠点とし、自動車ディーラー7社とその他の自動車関連事業4 社、および持株会社の全12 社で構成され、トヨタ、ホンダ、マツダ、スバル、ヒュンダイ、サンヨン、オペルを取り扱う新車ディーラー20店舗を持つ。

2017年6月には南アフリカでプジョー・シトロエンのインポーター事業を営んでいるPEUGEOT CITROEN SOUTH AFRICAの株式51%を取得するのと同時に、同社が行う第三者割当増資を同じく51%引き受け、同社を子会社化している。

クロスボーダーM&Aを積極的に推進した結果、2018年3月期の海外売上高比率は14年3月期の7.76%から、18年3月期には38.35%へと約5倍の急成長。課題だった海外販社の売上高経常利益率も14年3月期の△3.0%から、18年3月期には0.7%と黒字転換した。ただ、国内日産系販社は18年3月期実績で7.3%を計上しており、10倍もの開きがある。今後は海外販社の利益率向上が課題だ。

気を吐く住宅関連事業

異業種に参入して新たな市場を掘り起こす「縦展開」で、同社が最初に手がけたのはレンタカー事業。1999年6月に自動車販売を補完する事業としてレンタカーへ進出、オリックスレンタカー中部を設立した。2002年3月にはオリックスレンタカー中部がオリックスレンタカー大阪を吸収合併するなど、レンタカーでもM&Aによる規模拡大を進めている。

そして2014年8月にVTホールディングスは中京地区でマンション開発・販売事業を手がけるエムジーホーム<8891>を、第三者割当増資の引き受けと子会社アーキッシュギャラリーとの株式交換で連結子会社化し、住宅事業へ本格進出した。

子会社のエムジーホームが分譲販売するマンション(同社ホームページより)

マンションなどの不動産取得は「人生で最も高い買い物」だ。それだけ高い買い物をしたのならさぞや節約に励むかと思いきや、実は反対に財布のひもが緩むのだという。数千万円の買い物をした直後は金銭感覚がマヒし、高額出費に抵抗がなくなる傾向がある。

さらには「せっかく家を新しくしたのだから、車や家具、家電も一新したい」という消費者も多い。大手家電量販店が住宅事業へ参入するのも、新居での買い替えニーズを取り込むためだ。VTホールディングスも住宅事業への参入でこうしたニーズをつかみ、減少傾向にある新車販売を底支えする。

分譲マンション・戸建て住宅販売、建築請負などの住宅関連事業の売り上げは全体の5%にすぎない。それでも2018年3月期売上高は前期比32.8%増の91億2800万円、粗利益は同18.5%増の17億3600万円と、成長が続く。全社では売上高が同19.2%増、粗利益が8.6%増なので、社内でも高成長の事業といえる。長期的には大きな収益が期待ができそうだ。

あるか?トヨタ系ディーラーとのM&A

トヨタ系販社のM&Aに乗り出せるのか?(Photo By 掬茶)=写真と本文は関係ありません

祖業の国内自動車も大きなチャンスを迎えている。トヨタは2018年11月1日に開く販売店代表者会議で、販社の一本化と国内販売モデルの半減を正式に表明する方針だ。

当然、販売会社は浮足立つ。トヨタ販社の多くは「地元の名士」といわれる有力企業が母体。販売減で経営が立ち行かなくなる前に、傘下の販社を売却して連結企業から切り離そうとするだろう。

ホンダ系販社として創業し、チャンネル統合で業績が悪化した日産系販社を買収して国内自動車販売台数を伸ばしてきたVTホールディングスだけに、トヨタ系販社とのM&Aにも乗り出すとみられている。一方、トヨタが複数の自動車メーカーの販売を手がける巨大な独立系ディーラー誕生を嫌い、VTホールディングスによる買収に「待った」をかける可能性もある。

だが、国内新車市場が縮小するなかでディーラーを健全な形で運営するためには、自動車メーカーの枠を超えたメガ(巨大)ディーラーの登場に期待するしかない。VTホールディングスがトヨタ販社をM&Aで飲み込めるかどうかが、国内自動車販売の命運を左右すると言ってもいいだろう。

関連年表

 出 来 事
1983 3月 資本金4,000万円により、愛知県東海市加木屋町丸根に前身の「株式会社ホンダベルノ東海」が設立。

4月 本田技研工業株式会社とベルノ店取引基本契約を締結し、愛知県東海市加木屋町に東海店を開設。
1998 9月 名古屋証券取引所市場第二部に上場。
1999 3月 株式会社フォードライフ中部(現=連結子会社)と株式会社ホンダ自販名南(現・株式会社ホンダカーズ東海)の株式を取得。
  6月 株式会社オリックスレンタカー中部(現・J-netレンタリース株式会社)を設立。 
  11月 株式会社ブイティ・キャピタル(後に吸収合併)を設立。
2000 3月 株式会社ニュースチールホームズ・ジャパン(現・株式会社アーキッシュギャラリー=連結子会社)を設立。
  4月 株式会社ホンダベルノ岐阜の販売エリアを引き継ぎ、岐阜県に進出。
  4月 株式会社オリックスレンタカー大阪(現・J-netレンタリース株式会社)を設立。
  4月 中京ホンダ株式会社(現・株式会社ホンダカーズ東海)の株式取得
  6月 大阪証券取引所ナスダック・ジャパン市場に上場。
  10月 中京ホンダ株式会社が株式会社ホンダ自販名南を吸収合併し、商号を株式会社ホンダプリモ東海(現・株式会社ホンダカーズ東海=連結子会社)に変更。
2002 3月 株式会社オリックスレンタカー中部が株式会社オリックスレンタカー大阪を吸収合併し、商号を株式会社オリックスレンタカー名阪(現・J-netレンタリース株式会社=連結子会社)に変更。
2003 3月 株式会社トラスト(現・連結子会社)の株式取得
  4月 自動車ディーラー事業を新設分割によって㈱ホンダベルノ東海(現・株式会社ホンダカーズ東海=連結子会社)に継承させ、持株会社体制へ移行。 持株会社は、商号を「VTホールディングス株式会社」に変更し、本社を愛知県東海市加木屋町陀々法師へ移転。
2004 1月 株式会社シー・イー・エス(現・連結子会社)の株式取得
  9月 フェイスオン株式会社(現・ピーシーアイ株式会社=連結子会社)を設立。
  11月 株式会社トラスト(現=連結子会社)が東京証券取引所マザーズ市場に上場。
2005 4月 エルシーアイ株式会社(現=連結子会社)の株式取得
  12月 長野日産自動車株式会社と、同社子会社3社を連結子会社化。
2006 5月 株式会社ブイティ・キャピタルが商号を株式会社VTキャピタル(後に吸収合併)に変更。
  7月 2006年7月3日付けで静岡日産自動車株式会社、三河日産自動車株式会社と、同社子会社3社を連結子会社化。
  8月 株式会社ホンダベルノ東海が株式会社ホンダプリモ東海を吸収合併し、商号を株式会社ホンダカーズ東海(現=連結子会社)に変更。
2007 5月 フェイスオン株式会社が、商号をPCI株式会社(現・ピーシーアイ株式会社=連結子会社)に変更。
2008      6月 PCI株式会社が商号をピーシーアイ株式会社(現=連結子会社)に変更。
2011 2月 TRUST ABSOLUT AUTO (PTY) LTD.(現=連結子会社)の株式取得
  10月 SOJITZ ABSOLUT AUTO (PTY) LTD.(現・SKY ABSOLUT AUTO=連結子会社)の株式取得
2012 4月 株式会社日産サティオ埼玉と、同社子会社1社を連結子会社化。
  4月 COLT CAR RETAIL LIMITED (現・CCR MOTOR CO. LTD.)を連結子会社化。
2013 8月 エスシーアイ株式会社(現=連結子会社)を設立。
2014 4月 株式会社日産サティオ奈良を連結子会社化。
  8月 株式会社エムジーホームを連結子会社化。
  9月 静岡日産自動車株式会社が静岡日産ホールディングス株式会社を吸収合併
  10月 SCOTTS MOTORS ARTARMON (PTY) LTDを連結子会社化。
  12月 GRIFFIN MILL GARAGES LIMITEDを連結子会社化。
2015 5月 東京証券取引所JASDAQ(スタンダード)市場から東京証券取引所市場第一部へ、名古屋証券取引所市場第二部から名古屋証券取引所市場第一部へ指定替え。
  8月 株式会社トラストが東京証券取引所マザース市場から東京証券取引所 市場第2部へ指定替え。

8月 エムジー総合サービス株式会社を連結子会社化。
2016 2月 株式会社モトーレン静岡(現=連結子会社)を設立。
  4月 株式会社モトーレン静岡が事業譲渡を受け、BMW正規ディーラーとして営業開始。
  5月 Wessex Garages Holdings Limitedを連結子会社化。
  10月 MASTER AUTOMOCION, S.L.と、同社子会社11社を連結子会社化。
2017 6月 PEUGEOT CITROEN SOUTH AFRICA(PTY)LTDを連結子会社化。

文:M&A Online編集部

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。