Voucher(バウチャー)という用語は、動詞 vouch(真実性を保証する)+ er(行為者形)で、そこから「保証人」「証拠書類」「領収証」などの意味が出てきました。その vouch は、ラテン語の advocare (~を呼ぶ)が変化したものです。advocare は、ad-に vocare が接続したもので、vocare 自体に「呼ぶ」という意味があります。
綴りから英語の advocate(動詞;弁護する、擁護する、名詞;支持者、代弁者) に類似していると思われる方もいるでしょう。その通りラテン語の advocare の過去分詞から出たもので、スコットランドでは「弁護士」の意味があるそうです。ちなみに弁護士のことをフランスでは「avocat」、イタリア語では「avvocato」といいます。
さらに分解すると、この vocare は、「声」を意味する名詞 vox から派生したものです。英語でvoice(声)、vocal(声楽の)、vocalization(発声)は日本でも外来語になっていますし、invoice(送り状)もこの仲間です。
vox の変化形である vocal- に縮小辞 -ulum がついたのが「語彙」を意味する vocabularyです。「小さく呼ぶ」から「語」とか「名前」といった意味になりました。
vocare の過去分詞から派生した語で他に vocation(職業)があります。なぜ「職業」という意味になったのでしょうか。これは原語の「神に呼ばれること」から「神のお召し ->職業」と発展しました。日本語の「天職」に通じるものがありますね。
vocare というラテン語の動詞は、他にもいろいろな接頭辞をつけて多くの語彙をフランス語経由で英語にもたらしました。
例えば「前方」を表す接頭辞 pro- がついた provoke(怒らせる、誘発する)は、「前方へ呼ぶ」ことから「挑発する」と意味が転じたのでしょう。名詞の provocation(憤慨、誘因)、形容詞の provocative(挑発的な)もよく使われる言葉です。また後者はセクシーな意味でも使われます。英ランジェリーブランド「Agent Provocateur」(フランス語で”おとり捜査”)も意味からわかりますね。
ほかに、接頭辞 in- がついて invoke(上に呼ぶ ->呼びかける ->祈願する)、ex-がついてevoke(外へ呼ぶ ->呼び起こす ->喚起する)、con-がついてconvoke(共に呼ぶ ->呼び集める ->召集する)、re-がついてrevoke(後ろへ呼ぶ ->呼び戻す ->取り消す、撤回する)などの語が派生しました。名詞形はそれぞれ、invocation(祈願)、evocation(喚起)、convocation(召集)、revocation(取り消し)です。
文:猪浦道夫・天宮徹也(共同執筆)/編集:M&A online編集部