日本の集団主義と勤労倫理を学べという「ルックイースト政策」で、わが国でも有名なマレーシアのマハティール・ビン・モハマド前首相が連立構想でつまづき、政権の座を追われた。アブドゥラ・スルタン・アフマド・シャー国王が前首相の「下院議員の過半数から支持を集めた」との主張を退け、ムヒディン・ヤシン前内相の首相就任宣誓を受け入れて勝負がついたのだ。
1981年から40年近くマレーシアを引っ張ってきたカリスマリーダーのマハティール前首相に、事実上の「退場宣言」を突きつけたアブドゥラ国王とはどんな人物なのか。
アブドゥラ国王は1959年7月30日生まれの60歳。94歳のマハティール前首相はもちろん、72歳のムヒディン新首相よりも若い。2019年1月に第15代マレーシア国王のムハンマド5世の退位を受けて、第16代国王に就任した。が、意外なことに前国王との間に血縁関係はない。
実はマレーシアの国王は選挙制。と言っても、一般の国民から国王が選ばれるわけではない。マレーシア全13州のうち、君主が存在しない4州を除く9州の君主たちがマレーシア国王を互選する仕組みなのだ。アブドゥラ国王はパハン州のスルターン(君主)で、父親はアフマド・シャー前パハン州スルターン。スルターンは、他国の国王と同じく世襲制である。
さらにユニークなことに、マレーシア国王は終身制でなく5年間の任期制だ。前国王のムハンマド5世は就任から、わずか2年余りで退位した。その背景には国王に義務づけられている公式の説明なしに療養生活に入り、しかもその期間中にミス・コンテストでの優勝経験があるロシア人女性と再婚したなどの個人的スキャンダルがあったとされる。
マレーシアは立憲君主制で、国王による権力行使のほとんどは内閣の助言に基づく。かつて国王は公私にわたって法的免責特権を有していたが、1993年の憲法改正で私的行為の免責特権は廃止された。公務については免責されるが、国王の公務に責任を持つ政府を提訴できる。
今回のような首相の任命については国王が自ら判断できるが、下院で多数の議席を確保した党の代表が首相に任命されることになる。下院で内閣不信任決議が出た場合は、国王が内閣の助言により下院を解散するか、助言を拒否して内閣を解任するかを選ぶ。
今回、アブドゥラ国王から「退場宣言」を突きつけられたマハティール前首相だが、近く開かれる国会でムヒディン新首相の不信任決議案を可決させ、内閣総辞職か解散・総選挙に追い込む政界工作を進めている。目指すは首相への復帰。しばらくはマレーシア政界の混乱が続きそうだ。
文:M&A Online編集部