2006年に開発したiPS(人工多能性幹細胞)細胞によって、2012年に京都大学の山中伸弥教授らがノーベル生理学・医学賞を受賞した快挙は記憶に新しい。だが、京大には再生医療に関する成果はこれだけではない。
京大医薬系総合研究棟にあるインキュベーションオフィス「イノベーションハブ京都(京都市左京区)」を拠点とするオリゴジェンは、2011年に開発した神経幹細胞「OligoGenie(オリゴジーニー)」で、神経の再生医療に挑戦中だ。
オリゴジーニーはiPSの後に続くことができるだろうか。
オリゴジェンは「治療法のない疾患で苦しんでいる患者さんたちへ、幹細胞技術を用いて新しい治療法を提供する」ことを企業理念とする。2015年8月に京大医学部OBの城戸常雄氏によって設立された。
城戸氏は脳神経内科と内科の専門医。医師として治療法のない疾患で苦しんでいる患者と接することで治療への思いが次第に強くなり、渡米しバイオベンチャーを設立。脊髄損傷の再生医療製品開発に従事した。
その後、2011年に神経幹細胞オリゴジーニーを開発し、大量培養方法の開発にも成功した。2014年に日本で当該細胞と培養方法の特許が成立したことによって、当該細胞を用いた臨床治験を日本で行うため、オリゴジェンを創業した。
現在はオリゴジーニーをコアテクノロジーとし、再生医療製品の開発、創薬、新技術の開発を行っており、すでに日、米、欧16カ国、アジア8カ国の合計24カ国で特許が成立済みという。
年月 | オリゴジェンの沿革(同社ホームページより抜粋) |
---|---|
2015年8月 | 東京都千代田区丸の内にオリゴジェンを設立 |
2016年4月 | 筑波大学高細精医療イノベーション棟に研究室を開設 |
2017年8月 | ベンチャーキャピタル4社から1億1105万5000円を調達 |
2018年3月 | 研究室をイノベーションハブ京都に移転 |
2018年8月 | 本社をイノベーションハブ京都に移転 |
オリゴジーニーは脳を構成する3つの主要な細胞のうち、神経軸索周囲に髄鞘と呼ばれる絶縁体を作るオリゴデンドロサイトに効率良く分化できる細胞である。この細胞によって、有効な治療法がない神経疾患に対し、新しい治療法を生み出すことが可能となる。具体的には慢性脊髄損傷、先天性白質形成不全症、筋萎縮性側索硬化症、加齢黄斑変性症、多発性硬化症、アルツハイマー病などが対象となる。
オリゴジェンは競合他社の神経幹細胞よりも純度が高く(99%超の純度)、治療効果を示すのに重要と考えられているオリゴデンドロサイトへの分化効率が5倍以上高いという特徴を持つ。
また胚性幹細胞やiPS細胞から誘導した神経幹細胞やオリゴデンドロサイト前駆細胞と比べると、がん化する可能性が低く、凍結解凍も可能であるため、安全性とコストの面で優位性がある。
オリゴジェンは2017年8月に、そーせいCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)、ニッセイキャピタル、京都大学イノベーションキャピタル、SMBCキャピタルから総額1億1105万5000円の資金調達に成功している。そーせいCVCとニッセイキャピタルはそれぞれ1人取締役も派遣した。
現在はオリゴジーニーをプラットフォームテクノロジーとして、再生医療製品の販売や新薬の共同開発が可能な企業を探索中で、近い将来、現代の医療技術では治療困難とされている脊髄損傷やアルツハイマー病などを対象とした治療薬の登場に期待がかかる。
文:M&A Online編集部