京大が東大を抜き増加数トップに 大学発ベンチャー

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京都大学(京都市左京区)

日本で増加する大学発ベンチャー

日本における大学発ベンチャーが近年増加傾向をたどっている。欧米、特に米国に比較して、大学発ベンチャーの絶対数、育成が遅れていることは問題視されていた。経済産業省は2014年に「大学発ベンチャー1000 社計画」を策定した。その後、経産省の「平成30年度⼤学発ベンチャー調査」によると、日本における大学発ベンチャーは2278 社となり、2014年の1749社と比較し、529社(2014年比23.2%増)増加している。 

大学発ベンチャーの定義

では、大学発ベンチャーとは何を指すのだろうか。経産省の定義によると、以下のいずれかに当てはまる企業としている。

1.研究成果ベンチャー:大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー

2.共同研究ベンチャー:創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と協同研究等を行ったベンチャー

3.技術移転ベンチャー:既存事業を維持・発展させるため、設立5年以内に大企業から技術移転等を受けたベンチャー

4.学生ベンチャー:大学と深い関連のある学生ベンチャー

5.関連ベンチャー:大学から出資がある等その他、大学と深い関連のあるベンチャー 

上記の5つの要件のいずれかを満たす大学発ベンチャーではあるが、研究成果ベンチャー に分類される企業 が全体の58.9%(1341 社)を占めており、新規性の高い製品により新市場の創出を目指す「イノベーションの担い手」として期待されている。しかし、IPO(新規株式公開)数やM&AによるExit数は未だ年間数件のみである。

上場した大学発ベンチャーとして時価総額が最大なのは東大発のペプチドリーム<4587>の約6500億円。その他に東大発のユーグレナ<2931>約840億円、筑波大学発のCYBERDYNE<7779>約980億円、京大発リプロセル<4978>約150億円などがある。

M&AとしてExitした大学発ベンチャーの主な例としては、Mist Technologies(東大発、ウェブコンテンツの配信技術開発)が2016年にアドウェイズから買収され、popIn(東大発、ウェブ広告技術開発)が2015年に中国の百度(Baidu)から買収されている。大学発ベンチャーに関するM&Aの市場は、未だ成長の余地があると考えられる。

各大学の取り組み

前述のような環境もあり、各大学は研究開発型ベンチャーの育成に力を注いでいる。その中でやはり研究成果が事業化に結び付くために、ベンチャーキャピタルや大企業による大学発ベンチャーへの投資育成が目立っている。

まず、産業競争力強化法などに基づき4国立大学が出資設立した投資会社による支援がある。東北大学ベンチャーパートナーズ、東京大学協創プラットフォーム開発、京都大学イノベーションキャピタル、大阪大学ベンチャーキャピタルが挙げられる。また、大学が個別に認定しているベンチャーキャピタルからの出資もある。具体的には京都大学認定の日本ベンチャーキャピタルや、みやこキャピタルがある。

さらに、大学の研究成果を利用したいと考える大企業側も資本・業務提携を検討することが増えている。自社内で困難な新製品・サービスの開発に寄与するというメリットがあるためだ。

しかし、ここで留意しなければならないことは、通常ベンチャーファンドの存続期間は10年に対し、大学発ベンチャーは創薬分野をはじめとして、研究成果が事業化に結び付くには15年~20年と長期間に及び、投資資金も多額になる。そのため、通常のベンチャー企業と異なり、ベンチャーキャピタルをはじめとする出資者側も研究開発や技術への深い知識と理解が必須になる。 

京大発ベンチャー

日本における大学発ベンチャー数が最も多い大学は東大であるが、2016年から2018年までの増加数をみると、京大は東大を抜き、最大となっている。

京大には新規事業に繋がる研究成果が多数存在している。代表的な企業であるリプロセルは2003年に設立され、iPS細胞の基盤となるES細胞を用いた研究開発を進めていた。2013年にJASDAQ上場後は、欧米企業の買収や海外代理店との販売提携を行い、積極的に海外進出をしている状況である。また、再生可能エネルギー資源による発電事業を担うレノバは「京大ベンチャー1号ファンド」からの投資を受け、2017年にマザーズに上場した。同年にはユナイテッドリニューアブルエナジーを連結子会社している。今後の成長戦略に国内、海外M&Aも視野に入れている。

上場を達成した企業が存在する一方、研究成果を事業化に結びつけることが課題であったため、東大に後れをとっていたのが実情である。2014年に京大の100%出資により、京都大学イノベーションキャピタル(iCAP)が設立された。京大に属する研究者による「知」(研究成果・技術などを含む)を事業化することを目的とする企業に、出資その他の支援を行うことを事業目的としている。

また、iCAPだけではなく、京都大学産官学連携本部内の出資事業支援部門においても、Seed期の大学発ベンチャーに対して、インキュベーションプログラム等を用意している。学内だけの支援だけではなく、京大発ベンチャーの中には大企業からその研究成果や技術を事業化することを目的として、出資を受けるケースもある。FLOSFIAは2018年に次世代のパワー半導体の材料の共同開発を目指し、デンソーと資本・業務提携した。

文:M&A Online編集部