東京と伊豆諸島を結ぶ定期船の運行をする東海汽船<9173>が、レストラン船事業から完全撤退します。運行していたレストラン船「ヴァンテアン」は、2020年6月30日を最後に運行を停止することとなります。運営していた連結子会社の東京ヴァンテアンクルーズ(本社:東京都港区)は解散となります。
レストラン船の老朽化が進んで整備費用が増加していたところに、新型コロナウイルスの感染拡大で客足が急減し、損失が膨らみました。2020年1月から3月のレストラン船の利用客は前年同期比63.2%減の7,000人。売上高は58.9%減の6300万円まで落ち込んでいました。
東海汽船は2020年12月期第1四半期の売上高が9.6%減の21億7800万円で、4億5400万円の営業赤字を計上しています。非常事態宣言や渡航の制限などにより、本業の海運事業旅客部門の落ち込みも顕著。不採算部門の整理と立て直しを進めています。
この記事では以下の情報が得られます。
・東海汽船の業績
・レストラン船の業績推移
東海汽船は伊豆諸島や小笠原諸島への観光船、貨物船を運航しています。はじまりは1889年。実業家・渋沢栄一氏の後押しにより、東京湾に乱立していた船会社4社が合併して東京湾汽船が誕生。1942年に東海汽船へと社名変更しました。伊豆諸島と小笠原諸島の海運は独占状態にあります。
1927年に発生した金融恐慌で経営危機を迎え、それを乗り越えるために観光業に進出しました。1953年には、藤田観光グループを築いた小川栄一氏が社長に就任します。藤田観光<9722>は経営と資金面で東海汽船を支え、現在でも20.32%の株式を保有する大株主です。
レストラン船「ヴァンテアン」は1989年のバブル期真っただ中に就航。船上パーティーやプロポーズ、結婚式などの新たな需要を開拓しました。この船は「全国高等学校クイズ選手権」の決勝戦で使われていたことでも知られています。
東海汽船の事業は海運、船内などで食事を提供する料飲、レストラン、ホテル、自動車運送に分かれています。海運が売上の73.2%を占めており、観光船が一番の稼ぎ頭です。
業績は長らく冴えません。2017年ごろから日本はインバウンド需要が活発でしたが、東海汽船はその波に乗ることができませんでした。
2017年12月期の売上高は前期比2.4%増の114億4300万円。翌期は0.1%増の114億6000万円に留まっています。2019年12月期は台風などの天候不順により、3.0%減の111億1500万円となりました。
■東海汽船業績推移(百万円)
2017年12月期 | 2018年12月期 | 2019年12月期 | |
---|---|---|---|
売上 | 11,443 (2.4%増) | 11,460 (0.1%増) | 11,115 (3.0%減) |
営業利益 | 523 (26.3%増) | 131 (74.9%減) | △74 |
純利益 | 394 (11.4%増) | 148 (62.3%減) | 25 (83.2%減) |
※有価証券報告書より筆者作成
2020年12月期の業績は新型コロナウイルスで見通しの立たないことから、予想を未定としています。
次に海運事業と今回撤退するレストラン事業の業績を見てみます。レストランの売上は2017年12月期が3.1%減の10億3000万円、翌期が2.6%減の10億300万円。じりじりと減少を続けています。2019年12月期は売上高が10億円を下回りました。天候不順の影響を大きく受けています。
■セグメント別業績(百万円)
2017年12月期 | 2018年12月期 | 2019年12月期 | ||
海運関連 | 売上 | 8,543 (4.4%増) | 8,581 (0.4%増) | 8,340 (2.8%減) |
営業利益 | 847 (31.3%増) | 498 (41.2%減) | 320 (35.7%減) | |
レストラン | 売上 | 1,030 (3.1%減) | 1,003 (2.6%減) | 906 (9.6%減) |
営業利益 | 34 (16.8%減) | 24 (29.9%減) | △39 |
※事業報告書より筆者作成
利益も出にくい体質。本業の営業利益率は6.6%ですがレストランは0.6%ほど。レストラン船「ヴァンテアン」は1989年就航で、30年以上も現役で走り続けていました。維持費も嵩み、老朽化が進んだことが事業撤退の一因となっています。
2020年2月に3,711人の乗員乗客を乗せた「ダイヤモンド・プリンセス号」内で、新型コロナウイルスの集団感染が発生しました。712人の感染者を出した一連の出来事は、あらゆるメディアで大きく報道されました。3密を作りやすい環境のクルーズ船のイメージは悪化しました。
新型コロナウイルスにより、レストラン船は長期的な苦境に見舞われる可能性が高いです。理由は3つあります。
1.閉じた空間で食事をすることを避けようとする消費者心理が根強いこと
2.企業宴会の減少が鮮明になること
3.結婚式の受注に苦戦が予想されること
レストランや居酒屋そのものの利用が控えられる中で、イメージが毀損したクルーズ船の戻りは極めて遅く、これまでの売上水準には戻らない可能性が高いです。企業主催のパーティーも絶対数が減少し、大型の宴会も取りにくくなります。各レストランは本業が悪化した分を、結婚式で埋めようとします。少ない顧客の取り合いとなり、婚礼は中長期的に競争が激化すると予想されます。
2020年3月には神戸港を拠点とするレストラン船「ルミナス神戸2」の運営会社ルミナスクルーズ(本社:神戸市)が民事再生法の適用を申請しています。そして、東海汽船は東京ヴァンテアンクルーズの解散を決定しました。
「Go To」キャンペーンなど国内旅行の需要喚起を狙った大型施策が控えています。東海汽船はその波に乗ることができるのか。レストラン船の早期撤退を決めた東海汽船に注目が集まっています。
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