「会社を買収する」ーその際、対象会社の買収金額はどう決まるのだろうか?本連載では、会社の値段、つまり企業の価値がどう決まるのかについて、様々な評価手法について紹介していきたい。
前回はマーケット・アプローチ法の一つである類似上場会社法を紹介した。今回もマーケット・アプローチの手法に属する「類似取引法」と「取引事例法」についてみていきたい。
「類似取引法」とは、類似のM&A取引の売買価格と対象会社の財務数値に関する情報に基づいて計算する方法である。
M&Aに関するデータを正規に収集する組織・機関が存在しないことから、一般的に企業評価で利用することは少ないが、破綻ゴルフ場やホテル、パチンコホールなど、特定の業界においては、ある時期に頻繁にM&Aが行われることがある。
このような市場(業界)においては、会社更生手続の過程などで競争入札などが行われるケースもあり、ある程度、取引額と財務数値が入手できることから「類似取引法」を用いる場合がある。
類似取引法の計算例
類似取引法の計算方法や使用する主な財務数値は、前回ご紹介した「類似上場会社法」の考え方と基本的に同じである。
財務情報としては、シーズン別来場者数、一来場者当たり売上額、店舗面積当たり売上高など、より詳細な財務管理情報を調査し比較する点が異なる。
-前提条件-
対象店舗:X店
X店の年間売上高:680,000,000円
ドラッグストアの店舗事業価値を売上高で評価した取引事例の情報が数件存在する。評価は、売上高を基準に行う。
上記の表の通り、売買価格を指標となる売上高で割った割合をそれぞれ算定し、平均を出す。
平均売却(譲渡)価格/売上高=平均売却(譲渡)価格 1,550,000,000円÷平均年間売上高 2,810,000,000円=55.16%
次に、対象店の年間売上高に平均の割合をかけて、対象店舗の売買価格を算定する。
X店の評価額 =年間売上高 680,000,000円 × 55.16% = 375,088,000円
取引事例法とは、対象会社の株式について過去に売買がある場合に、その取引価額を基に株式の評価をする方法である。
過去に売買が何度か行われている場合は、基本的に直近で行われた売買の取引価額が用いられる。
この方法を採用する場合、まず利用する取引事例価額そのものが合理的な方法で評価されているかどうかを検討する必要がある。
取引事例法の計算例
取引事例法の計算例についてみてみよう。
-前提条件-
対象会社:A社
評価基準日:20×8年5月1日
A社の株式の過去の売買は以下の通りである。株価は合理的に評価されているものとする。
一番直近に行われた売買の取引価額は、5,780円であり、これを用いて、それ以後の経営成績 や財政状態の変動を考慮の上、評価基準日の価格を算定する。
次回は、インカム・アプローチに属する「フリー・キャッシュ・フロー(FCF)法」について、数値例を使って紹介したいと思う。
文:細田聖子(公認会計士・税理士)/編集:M&A Online編集部