政府による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの供給が間に合わないことから、職域接種の新規受付が中止された。自衛隊の大規模接種センターも2回目のワクチン接種に入り、1回目の接種予約が入りにくい状況に。一方で重症化の可能性が高く、感染力の強い変異ウイルス「デルタ株」の流行が始まった。こうした状況が大きく報道されることで「ワクチンパニック」が起こる可能性が高まっている。
当初は企業や大学などでの職域接種や大規模接種センターで利用する米モデルナ製ワクチンが不足していた。しかし、モデルナワクチンが接種できなくなったことから接種希望者が自治体やクリニックに流れ、米ファイザー製ワクチンの供給にも影響を及ぼし始めている。
北海道小樽市は6月29日、国からのワクチンの供給量が見通せないとして60歳以上を対象にしたワクチン接種の予約受け付けを一時停止したと発表した。同市によると同日朝に国から「ワクチンを要望通りに供給できないかもしれない」との連絡があったという。すでに予約が入っているワクチン接種は予定通り実行する。小樽市のようにワクチン予約を見合わせる動きが全国に拡大するのは必至だ。
東京都では6月30日の新規感染者が714人と、1カ月ぶりに700人を超えるなど「第5波」の到来も懸念されている。デルタ株に感染すると、ワクチンを接種していない場合は若年層や中年層でも重症化しやすい。政府CIOポータルによる、6月28日時点での国内ワクチン接種完了率が7.09%と低く、国内でデルタ株の感染が拡大すれば過去最悪の被害や医療崩壊が想定される。
これまでは新規感染者の増加が緩やかだったことや、大規模接種センターの予約枠が埋まらないといった報道もあり、「いつでも接種できる」と様子見をしていた未接種者も多かった。相次ぐ予約中止とデルタ株の脅威から未接種者が一斉に接種に動き出せば、まだ予約を受け付けている市町村では予約システムへのアクセスや問い合わせ電話が殺到する。
国は大規模接種センターでの集団接種や職域接種の件数を引き上げるため、地方自治体にワクチン接種券の早期送付を求めていた。すでに全年齢を対象に、接種券を配布した自治体もある。接種券があれば予約できるので、今春にアクセス集中でトラブルが続出した65歳以上の接種予約を大幅に超える申し込みが殺到することになりかねない。
コロナ禍初期のマスク不足と同様の「ワクチンパニック」が生じると、ますます接種が遅れる。政府はワクチン供給スケジュールを確定するのはもちろんのこと、未接種者もパニックに陥らず冷静に対応する必要がある。
文:M&A Online編集部