入居者とシェアオフィスの新たなプラットフォームを!|ユースラッシュ 内山裕規代表

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「シェアオフィス情報はもちろん、オフィスに付随する数々の付加価値も提供していく(内山裕規氏)

2018年4月にWEBマーケティング事業を手がけるユースラッシュ(U/、東京都目黒区。メンバー4人)を創業した内山裕規氏(39)。20代半ばから上場企業でインターネットメディア事業を統括する取締役として経営の一翼を担い、数多くの新規事業をスタートさせた。14年からはFintech事業を行うアーリーステージの企業に経営参画した経歴を持つ。そんな内山氏がU/で満を持してスタートさせたのが「JUST FIT OFFICE」というビジネスだ。

このビジネスの特徴を一言で説明すると、「シェアオフィスの供給側と入居する小規模企業・フリーランスなどをマッチングさせるプラットフォーム」(内山氏)。スタートアップにとって、「オフィスをどうするか」は最初に考える重要なテーマ。そこにU/は、シェアオフィス・コワーキングスペース情報はもちろんのこと、オフィスに付随する数々の付加価値の提供を考えている。

意外となかった“市場としての情報”

創業のきっかけは、内山氏自身の“素朴な疑問”からだった。

「U/を立ち上げて、まず、オフィス探しをしたんです。『シェアオフィスがいいな』と思ったのですが、まとまって紹介しているサイトがなくて、一般の賃貸オフィス仲介のような仕組みになっていなかった。サイトで紹介されている情報も個別のシェアオフィス運営企業のもので、それを頼りに内覧してみると、『自分たちの要望とちょっと違うかも……』の繰り返し。そこで、そういったシェアオフィスのすべての情報が載っていて、ウェブ上で入居の意思決定もできるプラットフォームがあればいい。ここに事業の芽がある、と考えました」

実際に、そうしたシェアオフィスやコワーキングスペースの需要やマーケットを調べてみると、フリーランスも含めてスタートアップのオフィス需要は急増してきた。若手の起業熱も高く、また、大手企業を中心にテレワークや副業を認める機運が高まるなど、シェアオフィス・コワーキングスペースに対するニーズは高まっていた。実は都心を中心に賃貸オフィスの空室率は1%以下と低く、「入居したくても、納得できるところに入居できない会社も多い」こともわかった。

「2018年はコワーキングスペースが急増していますが、それでも大きな需要に供給が追いついていません。そこで、いまのタイミングでプラットフォームをリリースするのがベストと考えたのです」

不動産業界のビジネスチャンス

シェアオフィス市場のプレーヤーとしては、現在約20拠点を展開するWeWorkが2021年には100を超える拠点をめざすなど、外資系を中心に日本のシェアオフィス市場に乗り出している。最近は日本の不動産業も、さらに不動産以外の大手・ベンチャー企業も負けていない。スタートアップ向けシェアオフィス市場は、不動産業界でも新たなビジネスチャンスとなっている。

そこにJUST FIT OFFICEは、入居企業とシェアオフィス供給側をマッチングさせるプラットフォームとして参入する。ただし、U/のターゲットは入居者が数人、十数人の小規模企業が中心だ。また、大企業でも新規事業チームがシェアオフィスを活用するケースがあるが、それも同社のターゲットである。

「一般的な賃貸オフィスの仲介ビジネスでは、できれば大きなオフィスで、大きな額の仲介手数料をもらうことを考えますよね。ところが、小さなシェアオフィスだと家賃も高くないので、一般的な賃貸オフィスのビジネスだと採算がとりにくい。その誰も扱いたがらない市場を独占的に押さえることをねらっています」

いたってシンプルなビジネスモデル

社員数」「エリア」で検索できるシンプルなスタイル
異なる業者の複数のシェアオフィスを比較検討できる

JUST FIT OFFICEのビジネスモデルはいたってシンプルだ。入居希望者(企業)は無料で利用でき、オフィス運営企業側より、成果報酬で手数料を徴収している。その市場のプラットフォームを運営するのがJUST FIT OFFICEであるため、いわば入居希望のスタートアップや大手の新規事業チームも顧客であり、個別のシェアオフィス運営不動産業も大手不動産のシェアオフィス部門もWeWorkも顧客である。

シンプルなビジネスモデルを体現すべく、ユーザーインタフェース(UI)も、従来の賃貸オフィス紹介サイトとはひと味違う。

「従来の賃貸オフィス紹介サイトだと、賃料、坪数、エリアなどで検索を絞っていきますよね。でもJUST FIT OFFICEでは、賃料と坪数は検索ワードには入れることができないようにして、あくまで利用人数とエリアで検索するUIにしています。そこからいくつかのシェアオフィスを比較検討できるようにしています(写真参照)」

賃貸オフィス市場に限らず、不動産業界・市場の商慣習は売買・賃貸・仲介・専任物件・広告料・両手取引……など、現在は是正されてきた面も含めて実は複雑だ。内山氏はその複雑な商慣習がJUST FIT OFFICEにとってはチャンスだともとらえている。シンプルであればこそ、入居希望者の意思決定も早く、シェアオフィス供給側のムダな時間や集客コストの削減などにつながる。それが、シェアオフィス供給側のプレーヤーである不動産オーナーにとっても利回りや収益性の向上につながるからだ。

8月の正式リリースに向けた取り組み

実はこの4月にリリースしたのはJUST FIT OFFICEのβ版であり、8月には正式リリースとなる。β版であるものの、すでに首都圏を中心に70拠点ほどが紹介され、当面は主要都市で300拠点超を目標としている。

内山氏はこれまでは特段の資金調達は受けず、いわば自己資金でこのビジネスに取り組んできた。だが、β版でニーズを緻密に取り込み、300拠点・全国展開となれば、システム開発・運用などのために大きな資金調達も必要になるだろう。

「たしかに、ゆっくりとニーズを見極めつつ事業展開するより、一定の額の資金調達をして、一挙に市場を席巻していこうという考えは強いですね」

そのためには、正式リリースでの付加価値も欠かせない。現在のJUST FIT OFFICEでは、サイトに表示される施設・空室情報などは運営者であるU/側で作成・登録している。だが、正式版ではシェアオフィス供給側でコントロールできるようにする。

それが実現・浸透すれば、シェアオフィス側にも競争原理が働き、より入居者の獲得のための質の向上が図られるだろう。その段階では顧客・契約管理、バーチャル受付、資材発注、入居期間管理、請求・与信、反社会的勢力情報の管理など供給側への支援サービスも取り込んでいく。また、士業の紹介、採用・資金調達、ビジネスマッチングなど入居者側への支援サービスも取り込んでいく。

「それらはすでに事業化している企業もあるので、そうした専業企業との協業も視野に入れています。ゆくゆくは、それら一切を含めた新しい賃貸オフィスビジネスの展開をねらっています」

エグジットをどこに見定めるか?

スタートアップとして、事業が最も成長できるエグジットを見極めていく

JUST FIT OFFICEはまさに、ありそうでなかった、誰も手がけてこなかったビジネスだ。だが、300拠点、全国展開が見えてくるようになると、事業家として、JUST FIT OFFICEまたU/自体のIPOやM&Aも視野に入ってくるかもしれない。

「まだ、具体的には決めていませんが、スタートアップとしてIPOやM&Aはいつも、ずっと考えていることですね。それに本腰を入れて考える頃にはJUST FIT OFFICEのビジネスを通じて、当社は膨大な企業情報を保有していることになる。それをもとに、たとえば新たなシェアオフィスの収益性診断などもできるでしょう。そのデータの価値をどう捉えるか、ですね。M&Aで事業を切り分けて譲渡するような方法もあり得ます」

スタートアップのIPOやM&Aはエグジット戦略の1つとして語られることが多いが、実はIPOではエグジットにならないという面もある。では、内山氏自身はエグジット戦略をどう捉えているのだろう。

「個人のエグジットより、現段階ではJUST FIT OFFICEのモデルがどうやったらより伸ばせるかを考えるのが先決。他社のほうが伸ばせると判断できれば、M&Aも重要な検討事項です。それが実現した場合には、また、新しい社会課題とその解決をめざしますよ」

取材・文:M&A online編集部