シンガポールで開催された6月12日の米朝首脳会談と前後して、米メディアは一斉に北朝鮮でのビジネスの可能性について報じた。
CNNは、北朝鮮を「潜在的に金(カネ)になる」市場と評価した。その理由として、中国や韓国、日本というアジア主要国のサプライチェーンの中央部に位置すること、経済的に伸びしろが大きく、国民は困窮してはいるものの一応の教育を受けており、労働力は隣接諸国より圧倒的に安いことなどを挙げている。エレクトロニクスや繊維製品で伸びる可能性もあると分析した。
ブルームバーグは、北朝鮮でこれから外国企業に機会のある分野として、小売消費者部門とインフラ整備(道路、鉄道、住宅)を挙げた。また製造業やテクノロジーの需要についても将来性があるとした。さらに鉱業の成長拡大にも期待を寄せた。米CIAによると、同国の天然資源には、石炭、鉄鉱石、石灰石、黒鉛、銅、亜鉛、鉛、貴金属などがあるとされる。
ニューヨークタイムズも、「実業界にとって北朝鮮ビジネスは魅力がある」と報じた。同国は比較的若年層が多く、非合法ながら起業家志向もある。レアアースや鉄鉱石など多くの資源に恵まれており、韓国から鉄道や発電所建設を含む近代化計画が提供されている点を評価した。また同記事は、米朝首脳会談後の記者会見における、「(北朝鮮は)巨大なビーチを持つ。大きなコンドミニアムができるだろうと言ってやった」とのトランプ大統領のコメントを紹介している。
CNNは、利益を北朝鮮から国外へ持ちだせず経営危機に追い込まれたエジプトのオラスコム(2000年代後半、北朝鮮国内初の携帯事業会社を政府と合弁で設立したが、その後創設された国営企業に利益を奪われ2017年撤退)を例に、北朝鮮でのビジネスの危険性を指摘。ヒュンダイグループのリゾート施設を2008年に没収された韓国についてもふれ、外国資本に対し懐疑的な現在の独裁体制が続く限り、ビジネスのハードルは高いとした。ただしサムスンは、北朝鮮への投資計画についてリサーチチームを立ち上げているとも報じた。
ブルームバーグも、貿易制限が緩和され経済が徐々に開放されても投資家にはリスクが大きいとした。その理由として、ニューヨークに拠点を置くヒューマン・ライツ・ウォッチの、北朝鮮政府が恣意的な逮捕、拘禁中の拷問、強制労働、公開処刑を通じ、恐怖と管理の体制を維持しているとの現状報告を挙げた。
ニューヨークタイムズもこれまでの企業接収の歴史に言及。2012年に北朝鮮政府に没収され4500万ドルの損失を被った中国の鉱山会社シーアングループや、国境の北朝鮮側に建設されたケソン工業団地に製造拠点を置いたヒュンダイグループが2度にわたり閉鎖、凍結され13億ドルの損害を被ったことを紹介した。併せて、労働力が基礎的なスキルに欠けること、北朝鮮には外国企業のビジネス紛争解決手段がないことを指摘した。
CNNは、北朝鮮の最大の貿易相手国であり体制の支持者である中国が、投資の先頭を切るだろうと予測した。
北朝鮮のインフラは荒れ果てており、中国の「一帯一路」構想に十分加わりうる。しかし、中国資本は、たとえばスリランカの港湾建設の援助に際して管理権を取得するなど強引な手法をとっている。「不良資産」とはいえ自国のインフラ資産を将来的に中国に引き渡すことになるが、北朝鮮は渋々ながら応じる形になるだろう。それに対し、アメリカは後れをとることになると同記事は結論づけた。
ニューヨークタイムズは、韓国の動きを紹介している。既にいくつかの大企業が北朝鮮と試験的に接触し、計画を立案するための内部タスクフォースを立ち上げたとしたうえで、利益の上がりそうな会社―製鉄、石油精製、航空機会社など、北朝鮮が開放経済に踏み切れば真っ先に利益を得られそうな業種の株価は上昇の気配を見せたと指摘。「経済制裁がなくなれば韓国事業の4分の3近くは北朝鮮に投資したがっている模様だ」とも報じた。
アメリカ、中国、韓国いずれにしても、ブルームバーグは「少なくとも10年という長期的アプローチで臨む必要がある」とコメントしている。外国人投資家にとって最大のネックは、CNNの「世間と没交渉の官僚たちは、ビジネスパートナーとの付き合い方をわかっていない。彼らは自分たちが国際社会の掘り出し物(prize catch)だと思っており、自国が国際的にどんな悪評をとっているか気づいていない」と、政権の「得点稼ぎ」のために成果を急ぐ政府主導の経済外交に警鐘を鳴らす。
<参照記事>
http://money.cnn.com/
https://www.bloomberg.com/
https://www.nytimes.com/
文:Yuu Yamanaka/編集:M&A Online編集部