ユニゾホールディングス倒産の引き金となったローンスターと旧経営陣の策略

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REUTERS

ホテルなどを運営するユニゾホールディングス(東京都港区)が、2023年4月26日に民事再生法の適用を申請し、保全監督命令を受けました。負債総額は1,262億円。社債610億円が含まれており、国内の公募社債のデフォルトは2017年6月にエアバッグのリコールで倒産したタカタ以来となりました。

新型コロナウイルス感染拡大による業績の急悪化とも言われていますが、どちらかというと無謀なEBO(従業員による企業買収)による2,000億円超の貸付金を短期間で返済したことが主要因であり、返済資金に窮して不動産を次々と売却。キャッシュが回らなくなったというのが実情です。

このEBOを画策したのが、元社長の小崎哲資氏を含む前経営陣と、ハゲタカファンドで知られる投資ファンドのローン・スター(テキサス州)。日本初のEBOは最悪の結末を迎えました。

この記事では以下の情報が得られます。

・非上場化した後のユニゾホールディングス
・買収の概要

繰り返された増資がTOBを誘引

ユニゾはもともと日本興業銀行(現:みずほ銀行)の不動産事業の一角としてスタートしており、歴代のトップも興銀またはみずほの出身者が占めていました。みずほフィナンシャルグループ取締役副社長執行役員だった小崎哲資氏は、半ば飛ばされるような形で、ユニゾの前身である常和ホールディングスの社長に就任します。

小崎氏はホテルに積極投資を行い、会社の成長をけん引。社長に就任した2011年3月期の売上高は134億円でしたが、2018年3月期には525億円まで成長していました。

やがてユニゾは不動産の取得費用などとして、増資による資金調達を繰り返すようになります。その結果、安定株主だったみずほ系の保有比率が下がり、9%程度だった個人投資家の比率が28%超へと変化しました。

しかも、増資を繰り返したことで株価が低迷する一方、現金は2019年3月末時点で1,200億円(1年間で760億円の増加)を超えるなど、いびつな構造になっていました。

この変化に目を付けたのがエイチ・アイ・エス<9603>。2019年7月にエイチ・アイ・エスが3,100円で敵対的TOBを仕かけました。ホワイトナイトとして登場したのが、ソフトバンク系の投資会社フォートレス・インベストメント・グループ(ニューヨーク州)。当初、ユニゾはフォートレスの買収に賛同していましたが、突如として意向を覆しました。

割って入ったのが、アメリカの大手資産運用会社ブラックストーン・グループ(ニューヨーク州)でした。2019年10月にブラックストーンは5,000円で買い付けを行う意向を示しました。

潮目が変化したのが、2019年12月のEBOの提案。ローン・スターが買収資金を支援するというもので、買い付け価格は5,100円に設定されていました。

2019年末にブラックストーンとの協議は打ち切られますが、1月に5,600円で再度TOBを行うと発表します。最終的に従業員による買い付け価格は6,000円まで跳ね上がり、ブラックストーンは同額を提示しましたが、ユニゾはEBOに賛同。成立しました。

EBOを決断した小崎氏含む旧経営陣は、非上場化された後の従業員の保護を強く求めていました。ブラックストーンは、従業員の労働環境への配慮や、従業員がインセンティブプログラムに参加する権利を与えることを確約していました。

■ブラックストーンが従業員に対して確約していた内容

※「ブラックストーンによる当社買収提案に係るお知らせ」より

しかし、ユニゾは「ブラックストーンから従業員保護を含む企業価値の向上の観点から新たな提案はない」とし、「ローン・スターによる提案は、現在の当社の形態を基本的に維持することができ、当社が、従業員にとって働きがいのある企業であり続けることを確保するという点でも、また、従来の事業運営との連続性を持って持続的に成長していくことを志向することができるという点においても、当社の企業価値の維持・向上に資すると考えられるものであり、本基本方針で定める従業員保護という観点からも、引き続き優位である」と結論づけています。

しかし、この決断が本当に従業員の利益を考えたものであったかは疑問です。

中間配当で140億円余りがローン・スターの手に?

ユニゾの経営陣は、ローン・スターが買収資金を提供するEBOに賛同することを、2019年12月22日に公表しています。

それと全く同じタイミングで、小崎哲資氏を含むグループ会社の全取締役、全監査役、全執行役員の辞任が決議されています。辞任するタイミングは買収が完了するのとほぼ同じ時期の2020年4月末。グループ全体の業務の引継ぎに残るのは、執行役員わずか5名のみで、その年の5月末に辞任するという内容のものでした。この規模の会社で引継ぎに1カ月というのはやや不自然です。

EBOという聞こえのいい言葉だけを残し、TOB合戦でつり上がった買収資金の返済を残る従業員にすべて押し付けているようにも見えます。しかも、2019年12月初旬には中国の武漢市で未知のウイルス感染症が見つかり、年末にかけて瞬く間に広がる様を世界中の人々が目の当たりにしていました。

ユニゾの買収額は2,050億円。買付主体はチトセア投資で、ローン・スターが27%、従業員が73%出資するというものでした。ローン・スターの支援には条件があり、決済の開始日から半年後にローン・スターから経営サポートを得て協業体制を継続するか、資金を返済して独立するかの2つの道が提示されていました。

※「株式会社チトセア投資による第2回買付条件等の変更後の 当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(賛同)のお知らせ」より

ユニゾが選択したのは後者でした。ユニゾはチトセア投資に対して、2,500億円超の短期貸付を行っています。その額は2021年3月末に残高が2,060億円になるように調整されており、買収資金とほぼ一致する内容です。

■チトセア投資に対する貸付内容

※有価証券報告書より

ユニゾの現金は2020年3月末から9月末までの間で、1,635億円から550億円まで縮小。1,436億円あった販売用不動産は消失しました。チトセア投資の貸付金に充当されたものと考えられます。

※有価証券報告書より

コロナ禍にも関わらず、ユニゾは2021年3月期上半期に2,649億1,800万円もの売上高を計上しました。これは2020年3月期通期の売上高の6.5倍にも上る数字です。その多くは不動産の売却で得たものです。

更にユニゾは2021年3月期上半期に1株75億9,800万円の中間配当を実施。当時の発行株式総数は7で、531億8,600万円が中間配当として拠出されたことになります。買収当時と出資比率が変わらなかったと仮定すると、27%出資するローン・スターは単純計算で143億6,000万円を受け取った計算です。ローン・スターは利益を得て早々と立ち去りました。

倒産したユニゾは日本産業推進機構(東京都港区)がスポンサーとなり、再生に向けて動き始めます。同社は、ユニゾが十分再生可能であり、今後の更なる発展も見込めるとしています。

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