ホテル事業やオフィス賃貸事業を手がけるユニゾホールディングスに対して、旅行大手のHIS(エイチ・アイ・エス)が7月11日から実施中のTOB(株式公開買い付け)の成り行きに注目が集まっている。ユニゾ株価がTOB価格の1株3100円を上回る高値圏で推移し、このままでは8月23日を期限とする買付予定数の上限(所有割合40.21%)に届かない可能性が高まっているためだ。
HISは7月10日にユニゾに対するTOBを公表した。現在4.79%の所有割合を45%まで高めることを目的とし、11日から買い付けを始めた。40%台半ばということは形式上、子会社化にあたらないものの、実質的に傘下に収めることを意味する水準。ところが、想定外の事態に直面し、TOBの成否に暗雲が立ち込めているのだ。
何が起きているかといえば、HISによるTOB公表後のユニゾ株の急上昇。16日には年初来最高値3500円をつけた。5月24日の年初来最安値1756円のほぼ倍にあたる。
ユニゾ株の29日の終値は前営業日比50円高の3430円。既存株主の多くにとってはTOBに応募するよりも、市場売却する方が有利な状況にある。今後も現行の株価水準でもみ合う展開が続くようであれば、予定通りに買い付けることは極めて困難だ。
HISのユニゾ株のTOB価格3100円は、TOB公表前日の終値1990円に55.78%のプレミアム(上乗せ)を加えた。買付予定数の上限は1375万9700株で、買付金額は最大426億円に上る。
HISがTOBの成立を期すための手立てとしてはTOBの条件変更が浮上することが考えられる。つまり、TOB価格の引き上げだ。計画を軌道修正した場合は買付金額が相応に膨らむが、HISにはそれに見合う合理的な説明が求められる。
実は、HISによるユニゾへのTOBは別の意味でも注目されている。今回のTOBは事前協議がないままに一方的に行われている。このため、「敵対的TOB」に発展するのかどうかという点だ。
ユニゾは23日、TOBについて意見を「留保」したうえで、HISに質問状を提出した。HISからの回答内容を踏まえ、ユニゾは賛否の意見を最終的に決定するが、「反対」となれば、伊藤忠商事による対デサントに次ぐ今年2件目の敵対的TOBとなる。
今年に入り、事前に対象会社の同意を得ないまま行われるTOBは伊藤忠の対デサント、HISの対ユニゾのほかに、旧村上ファンドの関係企業である南青山不動産(東京都渋谷区)の対廣済堂の案件があった。
廣済堂のケースでは、米投資ファンドのベインキャピタルと組んでMBO(経営陣が参加する買収)を目的にTOBを実施していたが、途中で、南青山不動産が対抗TOBの形で参戦した。廣済堂は、南青山不動産の対抗TOB価格がMBOを計画した自社のTOB価格を上回っていたことから、最終的に「中立」の意見表明をした経緯がある。
もっとも、廣済堂をめぐるMBO、対抗TOBはいずれも廣済堂株価の高騰を主な要因として不成立に終わった。
さて、ユニゾTOBの帰趨はどうなるのか。
◎2019年:対象会社の同意を得ないまま行われたTOB
TOB実施会社 | 対象会社(意見表明の内容) | 成否 |
伊藤忠商事 | デサント(反対) | 成立 |
南青山不動産 | 廣済堂(中立) | 不成立 |
HIS | ユニゾHD(現時点、留保) | ? |
文:M&A Online編集部