「公認会計士から、『公認』をとったらどうか」。カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が7月23日、日本公認会計士協会が主催する「公認会計士制度70周年」記念講演に登壇し、「(公認会計士は)仕組みや制度に乗っかってお墨付きを出す人、ハンコを押す人になっている。それでいいのでしょうか」と問いかけた。「既存の仕組みや枠を飛び越えてほしい」としたうえで、「会計を武器として企業経営を内側から主導する人になってもらいたい」などと提言し、新たな会計士像に強い期待を寄せた。
ファーストリテイリングはアパレル製造小売り(SPA)で現在、「ZARA」を展開するインデックス(スペイン)、「H&M」のへネス&マウリッツ(スウェーデン)に続く世界第3位。2018年8月期の売上高は初めて2兆円(前期は1兆8619億円)を突破する見通しで、ほぼ半分を海外で占める。
「会計士が世界を変える」と題した講演の中で、柳井氏が明らかにしたのが一冊の本を介した公認会計士との運命的な出会い。今は絶版になっているが、その一冊とは1990年に発刊された「熱闘『株式公開』」(ダイヤモンド社刊、樫谷隆夫・安本隆晴著)。著者はともに公認会計士。柳井氏は早速、著者に連絡をとったところ、安本会計士が山口県にある小郡商事の本社に訪れ、安本氏との話を通じて経営や株式公開の社会的意味について再認識するまたとない機会になったという。安本氏は現在、ファーストリテイリングの社外監査役を務める。
柳井氏は1971年に早大を卒業後、ジャスコ(現イオン)勤務を経て、父親が経営するメンズショップ小郡商事(山口県宇部市)に入社。「ユニクロ」1号店を広島市内にオープンしたのは84年。以降、多店舗化にアクセルを踏み込んだが、悩みの種は資金繰り。銀行融資には限界があり、株式公開で活路を見いだすことにしたという。
1991年に小郡商事から現在のファーストリテイリングに社名を変更し、94年に広島証券取引所(2000年に廃止)に上場を果たした。97年に東京証券取引所2部(99年1部に昇格)に上場し、98年にはフリース・ブームで日本中に「ユニクロ」の名前が広まった。こうした躍進劇の背後に公認会計士の存在があったというのだ。
柳井氏が講演で強調したのは、公認会計士として既得権益や既存のルールに従うだけでなく、企業経営の内側から積極的に関与する役割だ。
現在、公認会計士だけに認められている独占業務は、企業が作成した財務諸表が適正であるかとうかについての監査・証明業務。柳井氏は「自らの専門知識を生かしてより幅広く活動できる道を模索してほしい」とし、「もっと会社の中に入ってみるべき。会計(の世界)だけで生きる必要はない。経営者と一体となって経営計画をつくる。そのプロセスを相談できるパートナーが会計士」とエールを送った。
さらに「半分冗談で半分本気だが、当社に入って、会計という武器を使って企業経営をやってもらえませんか」と提案。「良い会社は経営者と会計士がつくる。私はこう強く信じている」としたうえで、「皆さんの履歴書をお待ちします」と、会場を埋めた公認会計士の面々にリクルーティングして会場の笑いを誘った。
文:M&A Online編集部