【トルコ危機】知っているようで、知らない国「トルコ」とは

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トルコ通貨リラの急落は世界の金融市場を揺さぶり、「トルコ・ショック」が喧伝される事態になっている。引き金はトルコによる米国人牧師拘束問題をめぐるトルコと米国の関係悪化。米の関税引き上げ措置に対し、トルコは報復関税で応酬し、対立は深まりばかり。

一躍、ニュースの主役になったトルコだが、日本にとってはふだん身近に感じることの少ない国でもある。知っているようで、知らないトルコとは。

日本人旅行者はピークの4分の1に

photo by MiGowa:アジアと欧州を隔てるボスポラス海峡

トルコへの日本人旅行者は2017年に4万9323人(トルコ文化観光省発表)。10%ほど持ち直したが、2015年の10万4847人に比べて半分以下。ピーク時の2012年は約20万人に上ったが、テロ事件やクーデターなどの影響で低迷が続いている。

日本からは空路で13時間(ターキッシュ・エアラインズの直行便)ほど。庄野真代が歌う『飛んでイスタンブール』(作詞:ちあき哲也、作曲:筒美京平)が大ヒットしたのはちょうど40年前、1978年のことだ。

「エルトゥールル号事件」で絆を深める

トルコは親日国のイメージで語られることが多い。それを決定づける出来事が1890(明治23)年のエルトゥールル号事件だ。

当時のオスマン帝国が派遣した親善使節団を乗せた軍艦エルトゥールル号が帰路、和歌山県の串本沖で沈没。乗組員581人の犠牲者を出したが、住民総出の手厚い救護で69人が救助され、日本の巡洋艦で本国に送り届けられた。この救助劇がトルコ国内で広く伝えられ、遠い異国である日本との友好関係が始まったとされる。

日本が日露戦争でロシアに勝利を収めた際は、トルコが喝采を送った。歴史的にロシアの圧力にさらされてきたトルコは日本の快挙として称えたのだという。

イラン・イラク戦争で邦人救出劇

時は移って1985年3月。イラン・イラク戦争中、テヘランで孤立した邦人215人を救出するため、トルコ政府は特別機を派遣した。

3年前、「海難1890」という日本・トルコ合作映画(配給:東映)が公開された。両国の友好125周年を記念した製作されたものだが、タイトルにあるようにエルトゥールル号事件を軸に、後のテヘラン邦人救出劇を描いた。この映画で初めて両国の歴史的なつながりを知った人も多いに違いない。

また、東日本大震災に際して、トルコ政府は支援・救助チーム32人を約3週間派遣し、同様の支援・救助チームとして最長期間の活動を行っている。

日本とトルコが外交関係を樹立したのは1924年。620年余りに及んだオスマン帝国は1922年に滅亡し、翌年、トルコ共和国が成立した。明治維新後の新政府は、オスマン帝国と外交関係を築くことができていなかった。

世界史に燦然と輝く

トルコはアジアとヨーロッパの文明が出合う十字路といわれる。西アジアのアナトリア半島と東ヨーロッパのバルカン半島東端を領有。黒海、地中海に面し、ブルガリア、ギリシャ、ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン、イラン、イラク、シリアと国境を接する。隣国の多さは島国・日本では到底考えられない。

歴史の教科書で教わったように、トルコはかつて世界史で燦然と輝いている。オスマン帝国は1299年に建国。15世紀にビザンチン帝国(東ローマ帝国)を滅ぼし、イスタンブールを首都とした。東はアゼルバイジャン、西はモロッコ、北はウクライナ、南はイエメンに版図が広がる大帝国を打ち立てた。イスタンブールから、アナトリア半島の中央部のアンカラに首都が移ったのはトルコ共和国が成立してから。

現在の国土は78万平方メートルで、日本のざっと2倍。人口は7981万人。2017年の名目GDP(国内総生産)は8494億ドルで、世界第17位。中東ではトップだ。

NATO(北大西洋条約機構)には1952年に加盟し、ヨーロッパの“一員”として活動している。しかし、EU(欧州連合)への加盟は難民問題やエルドアン政権の強権化などが絡み、進展していない。

世界10位の経済大国を目指すトルコ

経済関係はどうか。トルコはその立地から、EUや中東、アフリカに向けた生産・輸出基地として注目され、日本企業の進出も増えている。2016年時点の進出は188拠点(前年比36%増)で、業種も商社、建設、製造業に加えて、金融、食品、医療などに広がっている。日本政府もトルコとのEPA(経済連携協定)交渉を加速し、関係強化に力を入れている。

トルコから日本への輸出品としてはスパゲティ、クロマグロ、紙巻きたばこなど、日本からの輸入品では建設機械、自動車・部品、エンジンなどが上位を占める。ただ、貿易相手国として日本は輸入で12位(2.0%)、輸出で62位(0.3%)で、とりわけ対日輸出には拡大余地がありそうだ。

ちなみに、トルコは2023年の共和国建国100周年までに世界10位の経済規模と輸出額5000億ドル(2016年1426億ドル)という目標を立てている。

在日トルコ大使館(東京・神宮前)

文:M&A Online編集部