「キンプトン」出店が仇となったツカダGH、持久戦に向けた事業整理を進めるか?

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2020年10月に日本初上陸した「キンプトン」

ホテルや結婚式場の運営をするツカダ・グローバルホールディング<2418>が、市況の急悪化に苦慮しています。2020年12月期の売上高は前期比55.6%減の271億1,400万円となり、114億7,600万円の営業損失(前年同期は63億8,300万円の営業利益)を計上しました。ツカダは2021年12月期の売上高を前期比47.5%増の400億円、10億円の営業利益を出すと予想していました。しかし、8月6日に業績の下方修正を発表。売上高は従来予想比5.0%減の380億円、10億円の営業利益から29億円の営業損失に改めました。ツカダは自己資本比率がコロナ前(2019年12月末)の37.7%から、2020年3月末時点で24.8%まで減少しており、危険水域に入っています。

この記事では以下の情報が得られます。

・ツカダ・グローバルホールディングの概要
・事業展開と事業別の業績
・キンプトン新宿東京の詳細

利益率の低いホテル事業を婚礼が支える構図

ホテルインターコンチネンタル東京ベイのラウンジ「ハドソンラウンジ/アンバー」(画像は2020年12月決算説明会より)

ツカダは1995年にウエディングプロデュース会社として誕生しました。2004年10月にマザーズに上場しますが、このときの社名はベストブライダルでした。青山の結婚式場「セントグレース大聖堂」や白金の「アートグレイスクラブ」などを運営し、ゲストハウスウエディングの黎明期を支えた会社です。2011年にホテルインターコンチネンタル東京ベイの運営権を取得しました。リニューアルを重ねて得意のウエディングノウハウを注ぎ込み、ホテルの再生に成功します。

ホテル運営の実績とスタイルを確立し、2014年1月にストリングスホテル東京インターコンチネンタルの事業を譲受。2016年1月に「ストリングスホテル名古屋」をオープンしました。

ツカダは品川のストリングスホテルの運営を開始した2014年に社名をツカダ・グローバルホールディングに変更しました。このときから、事業の多角化が鮮明になります。2014年9月にリフレクソロジーサロン「クイーンズウェイ」を運営していたFAJAの株式を取得。2020年9月にはハワイでチャペル運営をしているグロリアブライダルジャパンとその子会社2社を買収しました。

2020年10月にインターコンチネンタルホテルズグループのラグジュアリーライフスタイルブランドで日本初上陸となるキンプトンを東京都新宿区にオープンしました。「キンプトン 新宿東京」はツカダが社運をかけて開発した旗艦ホテルです。しかし、最悪のタイミングで新型コロナウイルス感染拡大の脅威にさらされました。婚礼、ホテル、リフレクソロジーすべての事業において、業績は冴えません。

2021年12月期第1四半期婚礼事業の売上高は前期比57.3%減、宿泊(ホテル)事業は同42.1%減、リフレクソロジー(サロン)事業は同17.8%減となっています。

【ツカダ・グローバルホールディング事業別売上高と損失の比較】

決算短信より筆者作成

ツカダは最初の緊急事態宣言が出される前の2020年12月期第1四半期の時点で、全事業すべて赤字になっていました。この時期、結婚式場はコロナを警戒した挙式の延期が相次ぎました。婚礼事業の赤字は理解ができますが、ホテルがこの段階でこれほどの赤字を計上しているのは一見すると不可解です。

観光庁によると、2020年1月から3月までの宿泊客数は1億450万人で、前年比で23.9%の減少に留まっていました。宿泊客の急減が鮮明になるのはこの後の出来事です。

実はツカダのホテル事業は、利益率が婚礼に比べて極めて低くなっていました。2019年12月期の婚礼事業の利益率は19.8%。一方、ホテル事業は2.7%です。キンプトンの開業費用がかからなかった2018年12月期でさえも5.4%に留まります。なお、藤田観光<9722>が運営するビジネスホテルのコロナ前の事業利益は6%前後。藤田観光のホテル事業は宿泊だけに特化して手間のかからない運営体制をとっていましたが、それでもツカダのホテル事業の利益率を上回っています。裏を返すと、ツカダのホテル事業は得意のウエディングで稼いではいましたが、宿泊や宴会は不調気味だったと考えられます。

宿泊の強化に繋がるはずだったキンプトン

「キンプトン 新宿東京」は、ラグジュアリーブランドの中でも尖ったコンセプトが特徴。テイクアンドギヴ・ニーズ<4331>が開発した「TRUNK」のようなブティックホテルが競合となります。キンプトンの客室数は151で、シティホテルには劣るものの、ブティックホテルよりは規模が大きくなっています。これは先ほど説明したツカダの弱点である、宿泊部門の伸長を計画したものと考えられます。

日本初上陸で話題性もあるキンプトンブランドは、宿泊客を呼び寄せるフックとしては十分でした。しかし、オリンピックの無観客化、お盆休みの時期の緊急事態宣言など、宿泊需要が回復する期待は消失してしまいました。通期の業績を下方修正した背景には、キンプトンの稼働が上がらず、運営費用が嵩んでしまうことがあります。

キンプトンの建物の帳簿価額は140億6,300万円で、「ストリングスホテル名古屋」の56億9,900万円や大型の結婚式場「伊勢山ヒルズ」の24億9,500万円などと比べて桁違いに金額が大きくなっています。結婚式場と同時にこのホテルがフル稼働するまで、需要回復への持久戦が強いられることとなります。

ツカダのリフレクソロジー事業は3期連続で赤字を計上しています。また、昨年買収した海外ウエディングの子会社も長期的な業績悪化に苦しむものと予想できます。不採算事業の早期切り離しが必要になるのかもしれません。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由