「東芝」買収を占う…「Jパワー」の前例

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英投資ファンドの買収提案に揺れる東芝

英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズから買収提案を受けた東芝を巡り、今後の注目点の一つが外為法上の取り扱いだ。

昨年5月施行された改正外為法では国の安全保障にかかわる技術の流出を防ぐ目的で、外国投資家による上場企業への出資規制を強化したが、東芝は原子力事業や半導体事業を持つため、重点審査の対象となる。実は過去、外為法の手続きを経て、「中止命令」が出たケースが1度だけある。

英投資ファンドのJパワー株買い増しに「中止命令」

話は2008年5月にさかのぼる。政府は英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)によるJパワー(電源開発)株の買い増し(9.9%→20%)に対し、中止命令を発した。4月に中止勧告を出したものの、受け入れられず、中止命令にいたった。「公の秩序の維持」が妨げられるおそれがあると判断されたのだ。

Jパワー本社(東京都中央区)

当時、Jパワーは国が推進する核燃料サイクルの中核となる大間原子力発電所(青森県大間町)の着工を控えていた頃(現在、運転開始時期は未定)。外資の影響力が高まり、その建設計画が廃棄されるなどすれば、国のエネルギー政策の根幹を揺るがせかねないとの理由が挙げられた。

Jパワーは1952年に国策電力会社として設立。2004年に民営化のため政府が保有株を放出し、東証1部に上場した。TCIがJパワー株を20%まで買い増すために事前届出を提出したのは2008年1月半ば。その時点でTCIの持ち株比率は規制基準寸前の9.9%で、10%を超えて取得する場合に事前届出が必要だった。

東芝は「コア業種」の指定企業

2020年5月に施行された改正外為法では外国投資家が上場株を取得する際、事前届出の基準となる持ち株比率を従来の10%から1%に大幅に厳格化した。

では、今回の東芝のケースはどうあてはまるのか。外為法上、事前届出が必要となる指定業種(一覧表)は「コア業種」と「ノンコア業種」に分かれる。重点審査の対象となるコア業種は武器や航空機、原子力、宇宙関連、軍事転用可能な汎用品、サイバーセキュリティー関連など12分野が定められ、東芝はこれらコア業種の多くを手がける。

一方で、コア業種であっても一定の要件を満たす外国投資家には事前届出を免除する制度が設けられている。それは証券会社、銀行、投資ファンドを含めた運用会社など「金融機関」が投資家である場合だ。

資産運用を目的とする株式の取得、つまり投資先の経営に関与しないポートフォリオ投資であれば、事前届出は免除される。だが、経営に関与するのであれば、話は別だ。事前届出審査の対象となる。

2008年のJパワーのケースではTCIによる事前届出の提出に対し、“伝家の宝刀”ともいうべき政府の中止命令までの期間は4カ月。

経営権掌握による影響をどう判断?

株式の買い増しだったJパワーのケースとの決定的な違いは、今回の東芝のケースは経営権の掌握を目的としている点だ。経営への関与以外の何ものでもない。

CVCキャピタル・パートナーズは東芝にTOB(株式公開買い付け)を通じた非公開化を前提とする買収を提案した。まだ初期提案の段階にあるが、東芝との水面下の調整を経て買収計画が動きだせば、焦点は政府の判断に移る。ただ、結論によっては外資の対内投資を委縮させかねないとの批判を招くだけに、対応に苦慮しそうだ。

車谷暢昭前社長の辞任を受けた東芝の新経営陣は上場維持を貫く姿勢とされ、事と次第では敵対的TOBに発展する可能性がある。第2、第3の買収候補者の出現も取りざたされ、さらに役者が増えそうな雲行き。「東芝」劇場の行方は混とんとしている。

◎事前届出業種(※非コア業種の分野にもまたがる)

コア業種 非コア業種
武器 熱供給業
航空機 放送業
宇宙関連 旅客運送
原子力関連 生物学的製剤製造業
軍事転用可能な汎用品 警備業
サイバーセキュリティー関連(※) 農林水産業
電力業(※) 皮革関連
ガス業(※) 航空運輸
通信業(※) 海運
上水道業(※)
鉄道業(※)
石油業(※)


文:M&A Online編集部