【東レ】「リチウムイオン電池」と「炭素繊維」に大きな動き

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東レが2019年12月の完成を目指して滋賀県に建設中の「未来創造研究センター」(東レ提供)

    東レ<3402>が設備投資を積極化させている。スマートフォンや電気自動車などに用いるリチウムイオン電池の「セパレータ」や、航空機や自動車向けの「炭素繊維」などの需要拡大に対応するものだ。特に韓国での投資が大きく、海外シフトが鮮明になってきた。同社は2020年3月期に2兆7000億円の売り上げを目指しており、既存事業の成長だけでなくM&Aによる増収も計画に盛り込み済み。今後数年間はM&Aと設備投資が同社成長の原動力となりそうだ。

M&Aと設備投資が成長の両輪に

 東レは2017年2月に中期経営課題“プロジェクトAP—G 2019”を策定。この中で「既存事業を持続的に拡大するとともにM&Aの活用などにより事業拡大を加速させる」との計画を明確に示している。これらの対策により2020年3月期に連結売上高2兆7000億円、連結営業利益2500億円を達成する計画だ。2017年3月期の業績(売上高2兆265億円、営業利益1469億円)と比較すると、売上高は金額で6735億円、比率では約33%の増収となる。同じく営業利益は金額で1031億円、比率では約70%の増益となる。

 この数字を支える設備投資については、対象期間中の3年間で5000億円規模を計画しており、このうち約6割を海外で投資するという。すでに同社の日覚昭広社長は計画の5000億円よりも増えるとの見通しを示しており、これまでよりも一層積極的な展開が見込まれる。もう一方のM&Aについては設備投資とは別枠で戦略的に実行するとしており、こちらも活発な動きが見込まれるため、M&Aと設備投資が両輪となって成長が加速されることとなる。

韓国など海外シフトが鮮明に

 具体的な案件については韓国での設備投資が目を引く。東レの韓国子会社であるTBSKはリチウムイオン電池セパレータフィルムの生産能力を1.5倍に高めることを決めた。同時にリチウムイオン電池のセパレータフィルムのコーティング加工を手がける東レの韓国子会社であるTBCKも生産能力を4倍に高める。投資額はフィルム自体の生産が2000億ウォン(日本円で約200億円)、コーティング加工能力の増強が1500億ウォン(同約150億円)に達する。

    東レでは2020年前後にリチウムイオン電池のセパレータフィルムの生産能力を2017年度比で3倍に高め、併せてコーティング能力の増強も実施する計画を持つ。今回の韓国での投資はこの計画の一環で、今後も高水準の投資が続くことなる。

 このほかにも自動車や航空機向けの需要が見込める炭素繊維や、電気自動車向けなどの需要が見込めるエンジニアリングプラスチック、同じく自動車の内装材向けの繊維など今後設備増強が見込める案件が数多くある。

炭素繊維分野でのM&Aが活発

    一方のM&Aについても、動きが活発化する可能性が高い。同社は創業間もないころから積極的にM&Aを繰り返しており、中期経営課題“プロジェクトAP—G 2019”で、突然M&Aが浮上してきたわけでない。近年の主なM&Aを振り返えると表1のようになる。

(表1)東レの主なM&A(2012年以降)

日時 買収先
2012年 Société des Fibres de Carbone SA
2013年 童夢カーボンマジック
2015年 サーティ(イタリア)
 〃 SolviCore(ベルギー)
 〃 デルタテック(イタリア)
2017年 曽田香料
 〃 パシフィック・テキスタイルズ・ホールディングス(香港)

   2013年に買収した童夢カーボンマジックは、レーシングカーの設計や製作を手がける童夢グループの企業で、自動車用をはじめとする炭素繊維複合材料事業を拡大する目的で買収した。合わせて童夢グループのタイ生産子会社も買収、海外でも同事業の拡大を目指す。

    2015年にはイタリアのサーティから炭素繊維織物・プリプレグ(強化プラスチック成形材料)事業を買収した。東レではフランスやドイツの子会社で炭素繊維複合材料を生産しており、炭素繊維織物・プリプレグ事業を傘下に収めることで、一貫したサプライチェーンの確立に乗り出した。

    同年に買収したベルギーのSolviCoreは、燃料電池や水電解装置の部材となる触媒層付き膜や、膜・電極接合体のメーカー。傘下に収め、燃料電池や水素関連事業を拡大するのが狙いだ。

    さらに同じ2015年には炭素繊維プリプレグのメーカーであるイタリアのデルタテックを子会社化した。同社は自動車向けを中心に高品質の炭素繊維プリプレグを供給しており、先に買収した炭素繊維織物・プリプレグ事業と合わせ、一貫したサプライチェーンの確立に力を入れる。

    ここ数年を振り返ると炭素繊維事業拡大のために、M&Aに取り組んできた姿が浮かび上がってくる。

新規事業の創出で売上高1兆円を目指す

    M&Aの今後の対象は“プロジェクトAP—G 2019”を見れば見えてくる。M&Aと並んで成長を支える設備投資計画は6割を成長拡大分野に投じるとある。同時に、表2のような新しいセグメントも公表している。

(表2)東レのセグメント

基幹事業   繊維、ケミカルと一部の樹脂製品
戦略的拡大事業 炭素繊維複合材料、機能化成品(リチウムイオン電池のセパレータなど)
重点育成・拡大事業 環境・エンジニアリング、ライフサイエンス

    この表からは、重点育成・拡大事業が設備投資の主な対象であり、戦略的拡大事業がM&Aの主な対象であると読み取ることができる。戦略的拡大事業のうち需要が伸びているのが、炭素繊維複合材料とリチウムイオン電池のセパレータであり、これら分野でのM&Aの可能性が高いといえる。

    ちなみに、重点育成・拡大事業は環境・エンジニアリングとライフサイエンスで構成されており、この分野には逆浸透膜や水処理、血液浄化器、血液ろ過透析対応製品などがある。もちろん設備投資の対象はリチウムイオン電池や炭素繊維なども含まれていることは間違いなく、設備投資で足りない分をM&Aで補完する構図が見えてくる。

    では中期経営課題である“プロジェクトAP—G 2019”が終了する2020年以降についてはどうであろうか。これについてもすでに対策は講じられつつある。“プロジェクトAP—G 2019”の中に盛り込まれている新規事業創出がその一つ。

    「水素・燃料電池関連材料」「非化石資源活用技術・製品」「環境対応印刷材料」「安全・ヘルスケア製品」「センシングデバイス関連部材」のテーマに重点的にリソースを投入する計画で、これら事業で売上高1兆円規模の事業を創出するという。こうした分野でも今後、設備投資やM&Aが実現しそうだ。

技術開発が同社の歴史

1937年ごろの滋賀事業所(東レ提供)

    1926年に英国のCourtaulds社からレーヨン糸を輸入販売していた企業が、国の製造業振興策のもとに、東洋レーヨン株式会社を設立したのが東レの始まり。 滋賀県に工場を建設し、1927年8月16日にレーヨン初紡糸に成功した。1941年には独自技術で「ナイロン6」 を開発。1970年には炭素繊維の開発に成功した。 

 2003年にはユニクロと連携しヒートテックの販売を開始。2016年には創立90周年記念事業として、グローバル研究のヘッドクォーターとしての機能を拡充するため「未来創造研究センター」の設立を決定。2019年12月の完成を目指している。 

 2014年6月には当時東レ会長だった榊原定征氏(現相談役)が第13代の日本経済団体連合会会長に就任した。

文:M&A Online編集部

 この記事は、当該企業の協力を得て執筆いたしました。